研究実績の概要 |
本研究の目的は、高分子水溶液中で動く温度勾配の下で発生する流動現象の発生機構を実験・理論の両面から解明することである。これにより、動く温度勾配下で起きる流れと輸送の協同から分子整流を実現する流体デバイスの原理を探求する。 本年度は高分子水溶液中を動く温度勾配下で見い出された流動現象を実験・理論の両面から解析を行った。水溶液中に赤外レーザーを集光・一方向に伝搬させ、周期的に伝搬する局所的な温度勾配(温度波)を形成すると、温度波に沿って逆向きの流動が生じる。温度波の周波数を変調したところ、流速が特異的な周波数で最大になる「共鳴的な」流動であることが発見された。 加熱点近傍で起きる局所的な粘性の低下と流体の圧縮が、温度波の伝搬に沿った流体の駆動を誘起する。また、温度波の周波数変調によって温度差・流体の圧縮率が変化することで、流速が温度波の伝搬に共鳴的に変化することが明らかになった。流体の圧縮は流体デバイスの局所加熱に伴う変形に由来しているため、流体デバイスのマテリアルを変えるなどして流速の変調が可能であることが期待される。 流速は温度波の周波数依存的であることから、周波数変調によって分子をトラップする分子操作を実現した。温度波を直線上で往復するように伝搬させると、向きが反対の2つの流れが生じ拮抗することで、流れのない淀み点が現れる。この淀み点への流れと温度勾配下で起きる輸送の協同効果により、分子が1点へ凝集される分子トラップが実現される。本研究成果はpreprintを公開しており(T. Fukuyama, S. Nakama, YT Maeda, arXiv:1708.09489)、現在論文査読中である。
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