研究課題/領域番号 |
17J03919
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
阿部 結奈 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 生体電気化学 / 生体医工学 |
研究実績の概要 |
皮膚は体外情報のセンシング,体内恒常性の維持にかかわる重要な臓器である.皮膚最外層である表皮角質層は,外的異物や内部の水分を通さない“バリア機能”をもち,生命維持に大きな役割を担う.皮膚機能に関する研究の糸口の一つとして,近年「表皮電位」とよばれる生体電位が注目されている.表皮は角質層を産生する細胞の積層であり,イオン輸送の働きによって皮膚の厚み方向に電位差を生む.この電位の値はバリア機能との関連が示唆されており,皮膚機能の定量評価のための新たな指標となることが期待できる. 当該年度はまず,以前開発した表皮電位測定用の小型プローブについて改良を進め,より簡便に安定した測定が行えるよう,持ちやすく堅牢な構造や皮膚になじみやすい素材などを取り入れた.皮膚機能治療研究の例として,先行研究で報告されている光照射によるバリア治癒促進法を取り上げ,プローブ型デバイスで電位測定を行い,光刺激時に表皮電位が回復する様子を観察することに成功した.また,先行研究で報告されている負電位印加によるバリア治癒促進法について,表皮電位をはじめとする様々な指標の測定を行い,回復の様子を多角的に評価することを試みた.表皮および角質層の状態を反映する各指標でそれぞれに治癒傾向が得られており,今後詳しく解析を進める予定である.さらに,皮膚への負電位印加のためのパッチ型デバイスを試作し,簡易的な実験で皮膚への電気刺激が問題なく行えることを確認することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表皮電位測定用のプローブ型デバイスを改良し,本研究の推進に不可欠な,皮膚機能の状態および治療効果の評価をより簡便に行えるようになった.また,プローブ型デバイスにはバリア機能治癒を促進する光照射用の光ファイバなど様々な機能を内蔵することが可能であり,研究・治療デバイスとしての拡張性が示唆される. また,表皮電位とあわせて,皮膚インピーダンスなどの指標からも皮膚バリア機能の治癒過程を評価し,治癒促進機序にかかわる考察のための大きな手掛かりが得られた.表皮生細胞層や角質層が実験的なバリア破壊状態から回復する様子を観察することで,よりよい治療効果を得る条件を的確に探索できるようになると期待できる. さらに,負電位引加用パッチ型デバイスの開発にも着手することができ,試作段階ではあるものの,デバイスを形にすることができた.皮膚バリア機能の治癒を促進する実用的なデバイスの提案に向けて一歩前進したといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後も当初の計画にもとづいて研究を進める予定である. 皮膚機能の状態及び治療効果を正しく簡便に評価するため,引き続き電位計測実験などによって基礎的な情報を集める.表皮電位等を手掛かりに,皮膚機能の電気的な側面について考察を深めていく予定である.また,治癒促進法での刺激条件を検討し,治療効果をさらに高める条件を探索する. 治療用デバイスについては,条件探索の結果を反映するとともに,当該年度に試作したパッチ型デバイスやプローブ型デバイスの構造をもとにして改良を進める予定である.ウェアラブル性・ディスポーザブル性など,さらに実用的なものとなるよう機能付与を進めていく.所属研究室で確立されている,有機材料等を用いた生体親和性の高い電気デバイスに関する技術の応用も期待できる.
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