皮膚は“最大の臓器”ともいわれ,体外情報のセンシング,体内恒常性の維持にかかわる重要なインタフェースである.最外層である表皮層は皮膚表面に角層を作り出し,内部からの水分の喪失,外部からの異物の侵入を防ぐ「バリア機能」を担う.近年,表皮が刺激伝達に関与する可能性が示されるなど,その機能的な側面について新たな研究展開が広がりつつある.表皮内部には「表皮電位」とよばれる電位差が発生しており,その大きさは部位により数十mVにも達する.表皮を構成する細胞のイオン輸送の働きによって作り出される電位差であると考えられ,その値の大きさは皮膚の傷やバリアの状態に応じて変化することが報告されている.本研究では,表皮内部に低侵襲にアクセス可能な測定法を開発し,皮膚内の電気化学的なメカニズムの解明を目指すとともに,それらを皮膚の診断や治療へと応用する新たな電気デバイスの開発を目指してきた. 前年度までに,表皮電位測定用の低侵襲小型プローブの開発・改良を行い,これを応用した皮膚刺激時の表皮電位変化を観察した.当該年度は特に,先行研究でバリア治癒促進効果があると報告されている光照射刺激・電圧印加刺激に主眼を置き,研究や応用に向け,表皮電位測定デバイスへの機能付与を進めた. まず光照射刺激について,照射光の照度や持続時間などにより表皮電位の回復速度に変化が生じることを観察した.効率よく治療効果を得るため,プローブ型の表皮電位測定デバイスに光照射機能を搭載し,リアルタイムで回復状況を観察しながらの照射実験も行った.将来的な皮膚バリア治療デバイスの開発に向け,重要な研究ツールとなることが期待できる. また電圧印加刺激について,表皮電位測定系を応用した刺激系を開発し,刺激条件をコントロールしながら電位変化を観察した.条件ごとの回復経過を比較し,治癒メカニズム解明への応用が期待できる知見を得た.
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