研究課題/領域番号 |
17J03942
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
日下部 大樹 九州大学, 大学院薬学府, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
キーワード | がん薬剤耐性 / レドックス / ROS / 酸化還元状態 / レドックス寛容 |
研究実績の概要 |
がん細胞に特徴的な生存シグナル因子を阻害する分子標的薬を用いた治療は患者の予後改善に貢献している。しかしながら、ほとんどの分子標的薬は患者の全生存期間(OS)を改善することができず、やがて出現する耐性癌が分子標的薬治療を制限している。がん克服治療において、薬剤耐性を生じさせない治療戦略の創出は緊急の課題である。そこで本研究では、がんの分子標的薬耐性メカニズムにおける還元ストレスの関与を明らかにし、それを基盤とした新規がん治療戦略の創出を目的としている。研究計画として「①分子標的薬耐性癌細胞株の作成と耐性メカニズムの解明、②がんの還元物質を標的とした新規がん治療薬の創出、③候補化合物の担がんマウスへの応用」の3点を実施する。本年度は①の目的を遂行するため、がん基礎研究分野との共同研究で実験を行い、がん研究の実験手法と知見の収集に努めた。 本年度は分子標的薬耐性癌細胞株の作成と耐性メカニズムの解明を目的としていた。分子標的薬である上皮成長因子受容体阻害剤(EGFR-TKI)に耐性を示す非小細胞肺癌細胞株の作成に成功し、耐性獲得に伴った種々の受容体発現低下をウエスタンブロッティングにて明らかにした。さらに、種々の分子標的薬のスクリーニングおよびDNAシークエンサー、免疫沈降などの生化学的な評価を親株と耐性株で比較検討することにより、EGFR-TKI耐性機序としてAktの活性化に糖タンパクXが関与することを見出した。本知見および習得した手技は今後の酸化還元状態に着目した治療戦略を検討するうえで極めて有用であると言える。また、予備実験として、次年度に計画していた、がん細胞と正常細胞の酸化・還元バランスを利用し治療応用可能な化合物のスクリーニングも行っており、候補化合物を既に選出している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では非小細胞肺がん細胞株を用いて、EGFR-TKIに耐性を示す耐性株の樹立に成功した。耐性株を用いて以下の内容を明らかにしている。①耐性株では親株と比較して、EGFRを含むEGFRファミリー等の増殖因子受容体の発現が低下していた。②EGFR-TKIを処理すると親株のリン酸化Akt発現は抑制される一方で、耐性株のリン酸化Akt発現は維持された。③耐性株はEGFR-TKIとは異なる別経路のチロシンキナーゼ阻害剤に随伴感受性を示し、耐性株のリン酸化Akt発現が特異的に抑制されることを見出した。④RNAマイクロアレイ解析の結果、耐性株特異的な糖タンパクXの発現上昇を観察した。また、糖タンパクXが耐性株のEGFR-TKI耐性機序で重要な役割を担っていることを明らかとした。これらの研究成果は計画通りの結果を示しており、経過は順調である。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では非小細胞肺がん細胞における薬剤耐性機序を明らかにした。来年度は本研究の目的である、がん細胞の酸化還元状態を利用した新規抗がん戦略の構築を目指し、細胞実験でのモデル系を確立する。予備実験として、正常細胞を保護しがん細胞の薬剤耐性化を防ぐ可能性のある化合物のスクリーニングを本研究室の共同研究員と行っており、既に候補化合物を選別している。がん細胞と正常細胞の酸化ストレスに対する感受性の違いに着目し、候補化合物から正常細胞は保護するが、がん細胞は効率的に細胞死へ誘導する有効な併用薬の探索を行う。また、選別した候補化合物の有効性を併用薬存在または非存在下での細胞生存率の評価により解析する。さらに、同条件下における酸化および還元ストレス、生存シグナル、糖および脂質代謝を評価することにより、構築した抗がん戦略のがん細胞を細胞死へと導くメカニズムを解析する。
|