研究課題
本研究では、寄生主と宿主の異植物種間の情報伝達が寄生器官(吸器)の発生を制御するという視点から、茎寄生植物アメリカネナシカズラの吸器発生における、導管形成の分子メカニズムの全容解明を目指す。平成29年度は、吸器発生を組織ごと(探索糸、導管、師管)に経時的に分析できるイメージング技術を発達させ、アメリカネナシカズラの寄生過程における、吸器内での組織形成過程を分析することに成功した。また、この技術を応用し、吸器形成に伴う、宿主由来物質の寄生主体内への輸送の様子と、吸器における導管及び師管の形成状況を比較することで、導管と師管が吸器の長短から基部方向に形成されるのに従って、宿主の導管と師管に由来する物質のそれぞれが各組織内に取り込まれることを明らかにした。アメリカネナシカズラの吸器発生過程における、遺伝子発現プロファイルを利用して、維管束形成関連遺伝子の吸器発生過程における発現変動を解析するとともに、クラスタリング解析により統計的に有意に、吸器の宿主体内侵入後に発現が上昇する遺伝子を選抜した。さらにこれら遺伝子から、シロイヌナズナの導管分化誘導関連遺伝子のオルソログを抽出し、宿主由来物質の受容と導管分化の両方に関わる遺伝子の推定を進めた。アメリカネナシカズラの吸器発生過程における導管形成と師管形成の経時的な分析結果と維管束形成関連遺伝子の発現変動の解析結果については、国際学会で発表した (Kaga et al. 2017) 。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は、宿主導管及び師管から蛍光物質を投与し、吸器への取り込みを経時的に解析するなどのイメージング技術を改良することに成功し、吸器発生に関する理解が進展した。イメージング技術の改良により、吸器発生過程における、導管のみならず、師管の形成を追跡することができるようになったことは、吸器内での維管束形成という複雑な現象を理解する上で重要なツールとなった。当研究室で実施したアメリカネナシカズラの吸器発生過程における遺伝子発現データの新たなデータマイニングによって、吸器発生過程における維管束形成関連遺伝子の網羅的な遺伝子発現プロファイルを再構築することができ、吸器発生における維管束形成の分子遺伝学的理解の促進に繋がった。また、宿主由来因子の受容と導管分化誘導の両方に関連する候補遺伝子を選抜するに至った。一方で、in vitroでの吸器発生を完全再現する実験系に関しては、吸器において、宿主と寄生主の協会に位置する細胞の伸長までの段階を再現するに至ったものの、導管分化を誘引できていないというのが現状である。また、形質転換法の確立に関しては、カルスからの誘導法が最も進行し、遺伝子導入まで成功はしたものの、成功例が非常に少なく、確立したと言うまでには至っていない。
In vitroでの吸器発生の完全再現を目指し、探索糸での導管分化を誘導する候補因子の探索糸への処理実験を推進する。誘導因子については、寄生部での宿主組織からの合成及び蓄積を確認した後、宿主に対する逆遺伝学的手法を用いて吸器発生における導管分化の影響を調べることで、誘導因子であることを実証する。形質転換法を確立した後に、先に選抜した候補遺伝子及び、in vitroの実験で実証された誘導因子の受容体と考えられるタンパク質をコードする遺伝子、を欠損させたアメリカネナシカズラ変異体を作成し、吸器での導管及び師管の形成に関する表現型解析を実施する。また、量子化学技術研究開発機構との共同研究により、イオンビームを用いたアメリカネナシカズラ突然変異体の作出も計画しており、得られた変異体から吸器での導管形成が正常に行われないものを選抜し、その原因遺伝子の同定をし、この遺伝子と宿主由来因子受容または導管形成への関連性を追求する。このような導管形成関連因子の網羅的な解析によって、宿主由来因子が誘引する吸器での導管分化制御機構の全容解明を目指す。
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