研究課題/領域番号 |
17J03964
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
加賀 悠樹 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 茎寄生植物 / 植物主観情報伝達 / 吸器発生 / 導管形成 / トランスクリプトーム解析 / イオンビーム |
研究実績の概要 |
本研究では、寄生主と宿主の異植物種間の情報伝達が寄生器官(吸器)の発生を制御するという視点から、茎寄生植物アメリカネナシカズラの吸器発生における、導管形成の分子メカニズムの全容解明を目指す。 平成30年度は、宿主植物体を用いないin vitroでの、吸器発生過程を完全再現する実験系の開発に挑んだ。青色光の下、アメリカネナシカズラをガラス板と寒天プレートで挟み、圧迫刺激を与えることで、これまでに吸器の原基形成、吸器を構成する細胞の顕著な伸長、吸器先端細胞の茎からの突出までの発生段階の誘導に成功した。さらにこのin vitroの実験系で再現した吸器において、導管形成制御関連遺伝子オルソログの発生段階ごとの遺伝子発現を解析した。この結果、これまでの通常の発生過程での導管細胞分化とは全く異なる制御機構が存在する可能性が示唆された。 また、炭素イオンビームを用いたアメリカネナシカズラの変異体ライン作成に向け、試験的にビーム照射を行なったラインを作成、育成し、イオンビームの強度や生育条件の検討を完了した。さらにアメリカネナシカズラの形質転換系の開発も進め、脱文化の誘導とカルスの維持に成功した。 宿主植物体を用いないin vitroでの吸器発生誘導系によって、吸器先端細胞の茎からの突出までの発生過程を再現できたことについては、国内学会で発表した (Kaga et al. 2018) 。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、宿主植物体を用いないin vitroの吸器発生再現系の開発に着手し、これまでにない新規実験系の開発に挑んだ。この実験系の開発を進めるにあたり、アメリカネナシカズラの吸器発生を、特定の発生段階で停止、維持することが可能となったことは、吸器発生の制御機構を解析する上で、実験対象や意義、手法に多様性を持たせることから非常に有意義である。 アメリカネナシカズラ形質転換法は未だ確立できていないため、吸器形成に関わる遺伝子の機能解析方法として、炭素イオンビームを用いた変異体ラインの作成に着手した。これまでに、照射するイオンビーム強度と生育条件の検討を完了している。今後は、大規模な変異体ラインの作成と寄生機能を指標とした、変異体選抜を進める予定である。 一方で、in vitroの吸器発生再現系において、吸器先端細胞の導管分化に至るまでの吸器発生を再現することは現状できていない。また、形質転換法の確立に関して、脱分化誘導とカルス維持には成功しているものの、再分化誘導に至れなかったことから、おおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
In vitroでの吸器発生の完全再現を目指し、まずは導管細胞分化中の宿主植物体組織や細胞を、吸器先端細胞と接着させることで、吸器先端細胞での導管細胞分化が誘導されるかを評価する。その後、吸器先端細胞の導管細胞分化が確認された対象を破砕し、懸濁した状態で吸器先端細胞に処理することで、導管文化が誘導されるかを再評価する。さらに、分化が確認され次第、対象を分画、処理を繰り返すことで、最終的に宿主植物由来の吸器先端細胞の導管細胞分化誘導因子の同定を目指す。 平成30年度までに確立した、宿主植物組織を用いたin vitroでの吸器での導管形成誘導系を用いて、宿主組織有無でのRNA-seqによる網羅的な遺伝子発現の比較解析を行うことで、吸器での導管細胞分化制御機構と宿主由来の因子の関係性を明らかにする予定である。 炭素イオンビームを用いた、大規模なアメリカネナシカズラ変異体ラインの作成に着手する予定である。得られた変異体から寄生機能を指標に、吸器での導管細胞分化制御に異常を持つ変異体を選抜し、その原因遺伝子を同定することで、吸器での導管細胞分化および宿主由来因子との関連性を追求する。 上記3つの研究を遂行することにより、宿主由来因子が制御する、吸器での導管細胞分化誘導制御機構の全容解明を目指す。
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