研究課題
血液脳関門(BBB)は、脳内への薬物の送達を物理的・機能的に妨げる天然の要害であり、このBBBの回避・突破が、薬による効率的な中枢神経系疾患の治療には必要不可欠と言える。本研究は、BBBの要である脳内毛細血管内皮細胞間の間隙に存在するtight-junctionを標的とし、このtight-junction制御抗体により細胞間隙を開口させる手法が、革新的な脳内への薬物送達技術に成り得るかを検証することを目的としている。当年度では、BBBを構成するtight-junctionタンパク質に対する免疫を行い、得られた抗体からBBBのバリア機能の制御活性が特に高い抗体を選抜することを目標としていた。今回得られた抗体の内、特に抗claudin-5抗体は、本研究の申請時に既に取得していた抗claudin-5抗体よりも10倍程度高いバリア制御活性を有していることが分かった。これらの抗体は、同程度の親和性で、ほぼ同一の領域を立体構造非依存的に認識するが、アラニンスキャニングで詳細な結合領域を評価した結果、結合しやすいアラニン導入変異体に違いが現れた。そのため、この微細な違いが今回取得した抗claudin-5抗体が高いバリア制御活性を示した要因と言える。この新規に取得した抗claudin-5抗体を用いて、in vitroでBBB制御活性を評価した研究成果は、Journal of Pharmacology and Experimental Therapeuticsにて公表している。また、申請時に既に取得していた抗claudin-5抗体は、取得方法が新規である部分があるため、methodologyとしての公表を目指し、現在論文を投稿中である。
3: やや遅れている
本研究で予定していた実験は大別すると、① 高いBBB制御活性を有するtight-junction binderを創製すること、② 申請時に既に取得していた抗claudin-5抗体を用いて、in vivoでの実験を先行して実施すること、の2つである。①に関しては、計画書通りに進行し、優れたtight-junction binderが得られたと言える。しかし、②に関しては、ほとんど進捗を見せていない。得られていた抗claudin-5抗体は、ヒト、カニクイザル、マウスのclaudin-5全てに結合し、種間交差性という大きな壁をクリアしているものの、マウスでのin vivo実験でBBB制御活性と言える活性を示さなかった。一方で、新たに取得した抗claudin-5抗体は、高いバリア制御活性をin vitroで示すものの、齧歯類claudin-5への結合交差性を有していないため、マウスでの検討ができないでいる。そのため、in vivoの実験は、BBB透過性を向上させる化合物を用いた実験手技の習熟に留まっている。
本年度の検討により、ヒトやカニクイザルにおいて十分なBBB制御活性を示すと思われるtight-junction binderの創製に成功していると言える。しかし、その種間交差性の問題から、binderのin vivoの作用機構の評価は、カニクイザルを用いるしかないのが現状である。しかし、コスト的に考えてカニクイザルを複数匹使用するのは難しい。そのため、代替案としてヒトのclaudin-5を発現させたノックインマウスを作製し、このマウスを用いてin vivoでの詳細な作用機構を評価することを考えている。よって次年度は、このマウスの作製と、このマウスの基礎的データを取得して行く予定である。
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Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics
巻: 363 ページ: 275-283
https://doi.org/10.1124/jpet.117.243014