研究課題
本研究は、血液脳関門(BBB)における物質透過制限機構の機能本体であるtight junction (TJ)を標的とした抗体(binder)を創製し、創製したTJ binderによってBBBの物質透過性を高めることが可能か検証することを目的としている。本研究では、claudinという約22 kDaと小さく、そして、4回膜貫通タンパク質であるがゆえに高い疎水性を持ち立体構造の維持が困難で、かつ、動物種間の保存性が高い、という抗体の取得難易度の高いタンパク質に対する抗体の誘導を行っている。特に、claudin-5は、ノックアウトマウスが生後一日以内に死亡することより、ノックアウトマウスを使用することによる動物種間保存性の高さによる免疫寛容の打破が不可能である。しかし、本研究では、そのような膜タンパク質であるclaudin-5を、高濃度リポソーム存在下で無細胞合成を行うことで、リポソームに包埋させ、遠心という単純な操作によりclaudin-5を高純度、かつ、高収量で調製することに成功し、それをそのままマウスに免疫を実施している。今年度は、その制作過程と創製した抗体の機能評価をまとめた論文をScientific reportに報告することができ、また、愛媛新聞にも記事を載せて頂いた。現在までのところ、claudin-5の細胞外領域に対する抗体を創製できたのは、申請者のグループのみであり、海外からも高い反響を受けている。同様に、抗体を用いてBBBのバリアを低下させるという試みは、申請者のグループのみが成し得ており、独自性の高い研究であると言える。
4: 遅れている
BBBのTJには、claudin-5、occludin、tricellulin、angulin-1がバリアを担う分子として存在していることが知られている。前年度までに、claudin-5、occludin、tricellulin、angulin-1などのBBBのTJを構成する膜タンパク質に対するbinderを作製し、これらがBBBの透過性を向上させるかを評価した結果、claudin-5に対するbinderである抗claudin-5抗体が、最もBBBの透過性を向上させる活性が高いという知見を得ている。計画書では、本年度では、binderを用いてマウスでの毒性試験や治療実験を行う予定であった。しかし、最も優れたbinderである抗claudin-5抗体は、ヒトやカニクイザルclaudin-5には結合するものの、マウスやラットclaudin-5には結合しないという難点を有しており、小動物を用いたin vivoでのBBB制御活性の評価を困難にしている。申請者は、前年度ヒトclaudin-5を発現させたノックインマウスの作製を試みたが、原因不明の問題により作製に失敗している。そのため、より狭い範囲の遺伝子を置換したマウスの作製や、最近海外の研究室が開発した同様の動物系を、現地に留学という形で所属し、使用して実験を行っていく。一方でin vitroの解析は進んでおり、本研究で作製した抗体が、TJには直接結合せず、TJに組み込まれる前のclaudin-5に結合し、そのTJへの組み込みを阻害していること、標的であるTJに組み込まれる前のclaudin-5がBBBの管腔側に存在していることを明らかにすることができた。
今後の研究推進方策として、海外留学を視野に入れている。前年度に作出を試みた遺伝子組み換えマウスが失敗した要因の一つが、現在の研究環境での遺伝子組み換え動物の作出能の低さにあると考えている。視野に入れている海外での研究室は、日常的に遺伝子組み換えマウスを作製しており、胚操作に習熟している技官に依頼を行うことができる。加えて、申請者と同様にclaudin-5に着目した研究を行っており、現段階でも、claudin-5の発現量を調整できるマウスを有している。そのため、留学を行うことで、仮に抗claudin-5抗体の使用が可能なマウスの作出に失敗したとしても、同研究室が有するマウスを用いて、本研究の目的であるBBBの透過亢進による薬物送達法の中枢神経系疾患治療への有用性、及び、その副作用の評価を行うことが可能である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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