研究課題/領域番号 |
17J04003
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小田 大和人 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 膜輸送 / トランスゴルジネットワーク / タンパク質分解 / ショ糖欠乏 |
研究実績の概要 |
これまで、TGN局在タンパク質と蛍光タンパク質の融合タンパク質を用い、TGN局在タンパク質分解を解析してきた。しかし、融合タンパク質の為、内在性タンパク質の分解であるかには言及できなかった。そこでNtSUT2抗体を用い、免疫ブロッティングを行った。この実験により、内在性のNtSUT2もショ糖欠乏条件で減少することを見出した。 また、共焦点蛍光顕微鏡を用い、細胞膜、TGN、SVCに局在するタンパク質であるNtSCAMP2-mRFPを解析した。ショ糖欠乏条件では、TGN、SVC上に存在するNtSCAMP2-mRFPは減少する一方で、細胞膜上に存在するNtSCAMP2-mRFPは減少しなかった。このことは、TGNやSVCに局在するタンパク質は選択的に分解されることを示していた。さらに、FM1-43を用いた解析により、ショ糖欠乏条件に伴うTGN局在タンパク質分解後も、細胞内に存在するTGNは分解されないことが判明した。 TGN局在タンパク質分解後の、細胞外への輸送の変化について知見を得るため、細胞外に分泌される細胞外分泌型スポラミンの検出を行った。さらに、培地画分における多糖分解酵素及び糖エステル分解酵素の活性測定を行った。これらの解析により、ショ糖欠乏条件においても、細胞外分泌型スポラミンや、多糖分解酵素、糖エステル分解酵素の細胞外分泌が続くことが判明した。 さらに、細胞壁構成成分として重要なペクチンの分泌量についても解析を行った。その結果、ショ糖存在条件では、細胞壁を構成するために多量のペクチンが合成、分泌されていた一方で、ショ糖欠乏条件では、細胞壁や、細胞外へ向けたペクチンの分泌は抑制されることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度中にTGN局在タンパク質の減少がオートファジーによるかを検討する予定であった。その為にATG5とATG7のRNAiノックダウン細胞を作製し、オートファジー阻害によるTGN局在タンパク質の分解抑制の有無を解析する計画であった。しかし、これらの細胞ラインの作製に時間を要しており、現時点では作製中である。また、ATG8とYFPの融合タンパク質とTGN局在タンパク質の共局在を行う解析についても、現在細胞ラインを作製中である。 電子顕微鏡を用いて、TGNの構造変化を解析する予定であったが、現段階では解析に至っていない。しかし、FM1-43を用いた解析により、TGN局在タンパク質の分解後もTGNの数は減少しないが、SVCの数は減少することについて明らかにできた。オートファジーとの関連性解析が未完了である原因のひとつとして、これらの実験・解析に重要なmKikGRを用いた分解機構の解析系が何らかの要因によりうまく働かなくなっていること挙げられる。現在mKikGRを用いたTGN局在タンパク質分解機構の解析系を再構成するための条件検討を行っている。 ショ糖欠乏時における輸送経路については、細胞内での輸送系に関する知見は未取得であるが、細胞外への物質輸送について多くのことが判明した。細胞外分泌型スポラミン、多糖分解酵素、糖エステル分解酵素は、ショ糖欠乏条件であっても、分泌が続くことが判明した。単独の輸送小胞による輸送系などにより、輸送が行われている可能性を示唆していた。 一方で、ペクチンの輸送は抑制されることが判明した。ペクチンの輸送の停止は、ペクチンの大量輸送システムである、SVCの分解による可能性が示唆された。 上記のように分解機構解明の実験は進行中であるものの未完了である。一方、輸送系の変化に関わる研究は予定より進んでいる。よって区分(2)と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
mKikGRを用いたTGN局在タンパク質の合成、及び分解速度の解析手法を見直す。現在、解析できない状態になっているmKikGRを用いた合成・分解の実験系を利用可能な状態とするため、実験の条件検討を行う。現在のところ、mKikGRに生じた問題の原因は不明であるが、細胞の培養条件を検討することによって、原因の追究を行っている。 並行して、TGN局在タンパク質の分解系の仕組みを解析するための実験を行う。ATG5、ATG7のノックダウンライン作成を中心として進める。これを用いて、ショ糖欠乏条件において生じるTGN局在タンパク質分解が抑制がされるか否かを解析する。また、ATG8とYFPの融合タンパク質及びTGN局在タンパク質とmRFPの融合タンパク質の共発現ラインを作成し、ショ糖欠乏条件において、ATG8とTGN局在タンパク質が共局在するか否かを観察する。 現在のところ、細胞外へ輸送される物質については、ショ糖欠乏条件における輸送変化の解析が進んでいる。しかし、細胞内での輸送系や輸送物質の変化については、不明な部分が多い。そこで、細胞内部の輸送系についての解析を行うため、酸性フォスファターゼの活性を測定する実験や、ショ糖密度勾配により細胞小器官ごとに分画し、輸送経路の変化を解析を行う予定である。さらに、スポラミンを用いたパルスチェース実験により輸送系の変化を解析する予定である。 また、最終年度に行う予定である、シロイヌナズナの組織において、タバコ培養細胞と同様のTGN局在タンパク質の減少やTGN・細胞内物流の機能変換が生じるかを検討するため、必要な植物個体の作製を開始する。
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