研究実績の概要 |
今年度は, 修士後半でスタートした「高速電波バースト(FRB)の連星中性子星合体モデル」に関する研究を継続して行った. 結果として, 連星中性子星合体シミュレーションによれば, 合体前後の1ミリ秒程度の時間ウインドウで電波放射が脱出可能である (観測できる) ことが判明し, これは昨年度末に提出した修士論文へまとめた. この結果に新たなアイデアを加えたのが, 本年度の仕事である. 従来の連星中性子星合体モデルでは, 合体の瞬間に一回きりの電波バーストが起こり, その後にブラックホールが形成されるという仮定が暗にあったが, これだけでは現実に見つかっている全ての FRB を説明できない (ほとんどの FRB は一回性のものだが, 何度もバースト繰り返す変わった FRB も報告されている). しかし, 合体前の中性子星の質量が十分に軽ければ, 合体後にブラックホールではなく, 高速回転する中性子星が生き残る可能性がある. この生き残った中性子星自体が FRB を起こす可能性を議論したのが本研究の特色である. これらの成果は査読論文として受理され, 近日出版予定である. また, 連星中性子星合体は主要な重力波源でもあるため, 我々のモデルは FRB と重力波を繋ぐユニークなツールとなりうる. 通常, 連星中性子星合体は重力波望遠鏡により発見されるが, これと同時に視野の非常に狭い電波望遠鏡で FRB を検出することは非常に困難である. しかし, 我々のモデルによれば, 合体後1-10年にわたり, 合体で残った中性子星からの電波放射の存在を予言するため, 時間をかけた将来観測により検証できる可能性がある. この点を, 9月に京都大学で開催された研究会で, 国内重力波コミュニティに向けて, 強くアピールすることができた (この一月後, 連星中性子星重力波初検出が報告された).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では, 「高速電波バースト(FRB)の連星中性子星合体モデル」に関する理論研究として, 連星中性子星合体シミュレーションを用いて, FRB 電波放射の合体環境からの脱出可能性を主に検証する予定であった. この結果として, FRB の電波放射は, 合体前後の1ミリ秒で脱出可能であることを定量的に示した. これにより, 電波j放射の脱出可能性については, これまで楽天的な予想がなされているだけであった FRB-連星中性子星合体モデルに, シミュレーション側から確固とした土台を与えることに成功したと言える. 一方で, FRB には複数の種族が存在する可能性が観測から示唆されている(ほとんどの FRB は一回性のものとして観測されるが, 一方で何度もバーストを繰り返す変わった FRB も報告されている). 従来の連星中性子星合体モデルでは, 合体の瞬間に一回きりの電波バーストが起こり, その後にブラックホールが形成されるという仮定が暗にあったため, 全ての観測された FRB を説明することができない状況であった. しかし, 合体前の中性子星の質量が十分に軽ければ, 合体後にブラックホールではなく, 高速回転する中性子星が生き残る可能性がある. この生き残った中性子星自体が FRB を起こす可能性を指摘し, 観測されている多様な FRB 種族を矛盾なく説明できることを示したのが, 今年度後半の仕事である. 結果として, 予期せず出てきたこれらの新しいアイデアを当初の成果に加えた形で, 査読論文として出版する運びとなった. 以上の理由により, 今年度の進捗状況は当初の計画以上に進展したと考える.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は, 夏頃より, すばるによる FRB 追観測プロジェクトチームの一員として解析に参画する。チャンスがあれば、主要な解析を担当し、論文を筆頭著者で書くことも狙いたい。追観測の結果, 残光に関するデータが十分に得られれば, (中性子星連星合体モデルを含め)多様な FRB 理論モデルによる説明が可能かどうか検証する. これとは別に, マグネター(強磁場の中性子星)の電磁波放射機構について筆頭著者としての論文執筆を行う. これにより,「FRBマグネターモデル」(マグネターからの電磁波放射が FRB を駆動しているとするモデル) の制限を行うことで, FRB の理論研究へも繋げていくことが可能になる.
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