原子スケールの観点から磁性ヘテロ構造の界面構造と界面電気・磁気特性の微視的な相関を解明するため、本研究は構造と磁性が非常に密接に関わる磁性体として知られる強磁性Fe薄膜に反強磁性Mn薄膜を積層した磁性ヘテロ構造に着目した。 Cu(001)基板上の面直磁化を示すFe強磁性薄膜(10原子層以下)上に成長したMn超薄膜(5~8原子層)によるMn/Feヘテロ構造を対象に、放射光施設UVSOR BL-4BにおいてX線吸収分光法/磁気円二色性(XAS/XMCD)測定を行い、東京大学物性研究所においてスピン偏極走査トンネル顕微鏡/分光法(SP-STM/STS)を行った。まず放射光XAS/XMCDにより明らかにした埋もれたFe超薄膜の磁気異方性の変化をSTMによるMn超薄膜の成長に伴う表面・界面構造の変化とSTS分光測定による局所電子状態の変化、及び第一原理計算による7原子層のFe超薄膜が持つ電子状態との対応を考察することにより、Fe超薄膜の磁気異方性変化の起源を明らかにした。続いて、Mn超薄膜表面のスピン偏極準位及び磁気構造を、磁性薄膜コーティングしたプローブを用いたSP-STM/STSにより明らかにした。原子スケール表面磁気イメージングにより、Fe超薄膜上のMn超薄膜は同一テラスで数十ナノメートル(nm)の幅を持った磁気ドメインを形成していることが分かった。この磁気ドメイン観測は埋もれたFe超薄膜とMn超薄膜の交換結合によるもののため、埋もれたFe超薄膜も同様に数十nmの磁気ドメインを形成し磁気的に安定する。またSP-STMによる原子スケール磁壁幅評価により、非常に大きな磁気異方性エネルギーを持つことが明らかとなった。 以上の結果、SP-STM/STSとXAS/XMCDの両手法を有機的に組み合わせることで原子スケールの観点から磁性ヘテロ構造の構造と磁性の相関を解明した。
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