研究課題/領域番号 |
17J04041
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平田 英隆 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 爆弾低気圧 / 温帯低気圧 / 微細構造 / 潜熱加熱 / 前線 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず、低気圧経路や発達率などを基に研究対象とする急速に発達する温帯低気圧(爆弾低気圧)の選定を行った。選択した低気圧については、観測データ等を活用して基本的な特徴を整理した。そして、雲解像モデルCloud Resolving Storm Simulator (CReSS) を用いて、対象事例の高解像数値シミュレーションを実施した。本年度は、近年、日本付近で最も急発達した2013年1月の事例、太平洋沿岸地域に大雨をもたらした2017年1月の事例に特に焦点をあて、研究を行った。 高解像数値シミュレーションの出力データの解析から、以下に記す低気圧システム内部に現れる地表前線の微細構造に付随する潜熱加熱の低気圧強化における働きが明らかとなった。まず、低気圧が急発達する際に、低気圧中心付近の地表付近で南北に伸びる前線の微細構造が形成された。この前線に伴って生じる上昇流には潜熱加熱の生成を強制する役割がある。そして、この潜熱加熱の増加が低気圧中心気圧を低下させることで、低気圧の急発達を促進した。このように、本解析によって、低気圧内部に形成する前線の微細構造が潜熱加熱の生成を介して低気圧強化へ大きく影響することが示された。 上記の低気圧発達と微細構造との関係を調査する過程で、低気圧に伴う大雨の発生を説明する新たなメカニズムのアイディアを得ることができた。本研究課題を発展させるために、この観点からも研究を実施した。2017年1月に三宅島で生じた記録的大雨をもたらした低気圧の地表前線を詳細に解析したところ、これまでの低気圧の前線の概念モデルには描かれない前線(アウター前線)の存在が示された。そして、その上に形成される降水バンドが三宅島に大雨をもたらしたことを発見した。さらに、その大雨発生過程における中緯度海洋の役割についても明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの過去の研究では明らかになっていなかった低気圧発達過程における低気圧内部の前線の微細構造とそれに伴う潜熱加熱の働きについて本年度の研究によって示すことができた。このことから、本課題の研究が着実に進展していると言える。また、低気圧の微細構造に注目したことで、低気圧に伴う大雨発生メカニズムに関する新たな知見も得ることができた。このような当初の予想を超える成果も出始めている。加えて、学術誌や学会等における研究発表を通じて、本年度の研究から得られた成果を研究コミュニティへ積極的に公表している。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、今年度の研究で得られた研究成果をさらに発展させることを試みる。具体的には、まず、本年度の研究で示した低気圧発達における低気圧内部の前線の微細構造の役割の一般性を調べるために、本年度注目した低気圧以外の事例についても調査を行う。次に、低気圧内部の潜熱加熱は、低気圧の発達のみならず経路にも影響している可能性があるので、低気圧の微細構造と低気圧経路との関係に関する研究も実施する。
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