昨年度の研究で示した低気圧中心近傍の前線の微細構造と潜熱加熱、低気圧強化との関係が、これまでに注目した事例とは異なるタイプの低気圧においても働きているのかを調査した。昨年度は日本列島南岸を通過後に東進した事例に着目したが、本年度は日本列島南岸を通過後に北進した事例に焦点を当てた。解析には、雲解像モデルCReSSによる低気圧の高解像度数値シミュレーションの結果と気象庁55年長期再解析データを利用した。北進する低気圧が発達する際に、後屈前線の西端において南北に伸びる前線が形成された。そして、この前線付近で潜熱加熱が生じ、この加熱が低気圧の発達を促すことを確認した。これらの結果は、昨年度の研究で示した結果と整合的である。さらに、北進する低気圧の場合は、後屈前線西端付近で生じた潜熱加熱が低気圧中心を西側へシフトさせることによって、低気圧経路をより日本列島へ近づける働きをすることを示した。このように、低気圧中心付近の前線の微細構造に伴う潜熱加熱は、低気圧発達のみならず低気圧経路にも影響を与えることが本年度の研究を通じて明らかとなった。加えて、北西大西洋の低気圧についても、同様のプロセスが生じていることを確認した。 昨年度の研究では、黒潮に伴う顕著な海面水温勾配が低気圧の前線の微細構造の形成へ影響することも指摘した。黒潮と前線構造との関係についてさらに理解を深めるために、CReSSを用いて黒潮域の海面水温分布を変化させる数値実験を実施した。現実的な海面水温を与えた実験では、観測された前線構造の形成を再現した。一方で、黒潮に伴う海面水温勾配を除いた実験は、現実的な前線構造を再現できなかった。さらに、数値実験の結果の解析から、暖流からの顕熱加熱がその前線形成に対して最も大きく寄与したことを明らかにした。これらの結果は、黒潮が前線構造の形成において重要な働きをするという主張を支持する。
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