研究課題/領域番号 |
17J04059
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田口 知樹 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 超高圧変成岩 / プレート収束域 / 変成流体 / コーサイト / 仮像 / 藍晶石 / 集束イオンビーム加工装置 / 透過型電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
プレート収束域における超高圧変成岩の上昇機構と流体挙動との関係を解明することを目的に、コーサイト(石英の高圧相)の仮像を対象に多面的解析を行った。特に深部流体が岩石に取り込まれた時期、深度及び組成を議論するため、多相包有物の岩石学的研究に加え、集束イオンビーム加工装置(FIB)と透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたナノレベル解析を実施した。本年度は、中国大陸に分布するSu-Lu帯南部で採取された超高圧変成岩を対象に、ザクロ石中のコーサイトの仮像の微細組織観察を行った。コーサイトの仮像は本来石英の集合体のみから構成されるが、本研究では超微細な非晶質SiO2相や変成流体由来の珪酸塩相からなる多相仮像を発見した。仮像内の共生関係と鉱物析出様式を明確にすることにより、超高圧変成岩の上昇末期における変成流体の組成とその挙動、そして浸透プロセスについて検討した。この成果は当該分野の主要な国際誌であるJournal of Metamorphic Geologyに掲載された。 上記の研究に加えて、岩石上昇期におけるコーサイトの減圧相転移の実態解明を目的に、超高圧変成岩中の藍晶石に取り込まれたコーサイトの微細組織観察を実施した。その結果、全く減圧相転移していない特異なコーサイトを発見した。TEM観察の結果、ホスト藍晶石にのみ顕著な転位組織が発達し、その転位密度はコーサイト包有物と藍晶石の境界近傍で高くなることを確認した。これは、コーサイトから石英への減圧相転移を阻害する要因として、転位の存在が大きく関わることを示唆する。本研究内容は、当初の研究実施計画には組み込まれていなかったが、広域変成帯の上昇機構・速度とコーサイトの減圧相転移の関係性を明確にする一つの鍵となる可能性があり、現在も研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の第一目標は、本研究課題を実施する上で必須であるFIBとTEMの技術取得にあった。これは今後の研究推進状況を左右するものであったが、受入教員及び共同研究者のサポートを得ることで、TEM用超薄片の作製とその観察まで一人で対応できるようになった。今回、FIB-TEMを取り入れた超微視的な岩石学的研究から非晶質SiO2相を発見したことは、世界初の成果である。非晶質SiO2相の存在は岩石の過冷却プロセスを示唆するものであり、これまでの超高圧変成帯のテクトニクスの再考を促す契機となることが期待される。また本研究の核である岩石学を軸とした多相包有物のナノ組織解析は、国際誌Journal of Metamorphic Geologyの査読者からも、今後の変成岩分野における最重要かつ新規なアプローチになり得ると高い評価を受けた。本研究は既に論文が受理され当初の予定以上に進展しており、研究対象地域を増やしつつ今後も効率よく遂行していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、非晶質物質とその形成に関わった流体の痕跡を広域的に探索する。具体的には中国Su-Lu帯北部(Rongcheng地域)や中部(Yangkou地域)などを対象として、初年度に確立した岩石学、ラマン分光学そしてFIB-TEMによるナノ鉱物学に基づく分野横断型研究から推進する予定である。この成果によって、プレート収束域における超高圧変成帯の上昇プロセスとそれに付随する流体挙動の全体像が把握されることが期待される。
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