研究課題/領域番号 |
17J04114
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中尾 光孝 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | シンチレーションカウンター / 陽電子 / 荷電レプトンフレーバーの破れ / 時間較正 / SiPM / 光検出器 |
研究実績の概要 |
昨今の素粒子物理学の研究おいては、標準理論を超えた新物理の探求が盛んに行われている。中でも、荷電レプトンフレーバーの破れ (CLFV) と呼ばれる未発見の現象は新物理の決定的な証拠であり、その実験的検証が注目を浴びている。私は国際共同MEG II実験に参加しており、イタリア・スイス・ロシア・アメリカの研究者とともに、スイスのポール・シェラー研究所の世界最高強度直流ミュー粒子ビームを用いて、ミュー粒子CLFV探索を目指している。先行研究であるMEG実験の探索感度を1桁改善するためには、崩壊粒子の高精度な時間測定によって背景事象を削減することが不可欠である。これまでに、陽電子の時間を高精度で測定する検出器(陽電子タイミングカウンター、TC) の開発・実機建設に取り組んできた。2017年度はTCのインストール・較正を行い、μ粒子ビームを用いたビームテストを行った。 [TCの建設完了]TCのメカニカルな補強や、時間較正用のデータの取得などを経て、512個全てのカウンターのアセンブリーを行い、9月に完成した。 [Pilot Run 2017]10月以降は、実機を実際に実験エリアにインストールし、実際の大強度ミュー粒子ビーム環境下で検出器の運用を行った(Pilot Run 2017)。実際に取得したデータを用いてエネルギー・時間・位置の各種較正を行った。特にTCでは時間較正が重要だが、そのためにこれまでに2つの相補的な較正方法を開発してきた。これらを実際に初めてTC全てに適用し、その整合性を確認し、2つの方法をどのように組み合わせて運用していくかについて検討を行った。 最後にTCの性能評価を行った。1つの陽電子の飛跡時間を、平均で9つのシンチレーションカウンターで測定することで高精度な時間測定を達成するという方法を実機で確認し、目標時間分解能を達成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標はこれまでに開発・建設してきた検出器(TC)のインストール・較正を行うことであった。「研究実績の概要」で述べた通り、実際に目標を達成することができたので「おおむね順調に進展している。」と結論づけた。 以下では特に時間較正の観点から補足する。陽電子の時間を高精度で測定する検出器である、TCではその性能を最大限生かすために時間較正が欠かせない。そのためにレーザー光を用いた時間較正方法 (レーザー較正法)を開発し、建設を進めてきた。レーザー較正法を実現するための最後の設備備品が、レーザー光の損失を抑えつつ分配する光学スイッチであった。2017年度は光学スイッチを導入し、レーザー較正法を完成させることができた。 その他の較正や検出器の運転なども順調に進めることができ、MEG II実験Physics Runへ向けたTCの準備は概ね整った。
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今後の研究の推進方策 |
以上の本年度の研究を以ってMEG II実験Physics Runへ向けたTCの準備は概ね整った。2018年度は陽電子ドリフトチェンバーも含めた陽電子スペクトロメータ全体としての解析ソフトウェアの整備を行うとともに、本研究の最終目標であるミュー粒子が陽電子とガンマ線に崩壊する現象の物理解析へ向けた準備を本格的に始める予定である。
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