研究課題/領域番号 |
17J04115
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
河田 卓也 東京理科大学, 理工学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 乱流直接数値解析 / 粘弾性流体 / 可視化実験 |
研究実績の概要 |
平成29年度における研究活動では,高レイノルズ数乱流における大規模構造と壁面付近の小規模構造の間に生じる非線形相互干渉が果たす役割の解明を目的としたコンピュータ・シミュレーションのプログラム作成の完了と,粘弾性流体の基本的性質を調べることを目的とした粘弾性回転平面クエット流れの実験準備の完了を目標に研究活動を行った.以下に研究実績の概要を述べる. コンピュータ・シミュレーションによる乱流解析では,まずレイノルズ応力方程式に基づいて,異なるスケール間の非線形相互干渉により生じるスケール間のエネルギー伝達やエネルギーの空間拡散を定式化する方法を考案した.乱流は様々な大きさの渦構造から成り立っており,こうした異なる大きさを持つ渦同士がお互いに相互干渉する事でその機構を維持していると考えられているが,その詳細を解明する事は未だに困難である.今回考案した定式化を用いた解析によって,こうした相互干渉が果たす役割をより定量的に評価する事が可能になり,乱流構造を維持するメカニズムのさらなる解明に役立つ事が期待できる.本研究活動では,新しく考案した解析手法を既存の実験データに用いて有用性を示し,その結果を副次的なものも含め,国内外の会議において口頭発表した.本研究のこれまでの活動において考案された解析手法は,ニュートン流体の乱流だけでなく,本研究課題のもう一つのターゲットである粘弾性流れの解析においても有用と期待できる. 現在は,こうした解析を大規模数値シミュレーションにおいても行うため,必要なプログラムを解析コードに実装し,その妥当性の検証を行っている.並行して,粘弾性流体の回転平面クエット流れの実験に必要な添加剤や攪拌機等の物品を購入し,スウェーデン王立工科大学に輸送,現地の実験装置のセットアップを行い,既にいくつかの濃度条件下における予備的な可視化実験を開始している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書に記載した当初の研究計画では,一年目の研究活動で乱流回転平面クエット流れの直接数値シミュレーションを開始する事と共に,スウェーデン王立工科大学における粘弾性回転平面クエット流れの実験を行う準備を整える事を目標としている.これに対し,現在はスウェーデン王立工科大学で既に粘弾性流体の可視化実験を始めており,直接数値シミュレーションに関しても,乱流の大小スケール相互干渉によるスケール間エネルギー伝達と乱流拡散の効果を定式化する事に成功し,直接数値解析コードに必要なサブルーチンプログラムを実装・妥当性の検証を行っている.実験の準備に関しては既に可視化実験を始めており,当初の計画よりむしろ若干早く進展している.その一方で数値シミュレーションに関しては未だに解析を始めるに到っておらず,この点で当初の計画より多少遅れているが,これはスケール間エネルギー伝達と乱流拡散の効果を定式化する理論的な作業に時間を要したためである.研究計画を立てた当初は,この様にスケール間相互干渉がエネルギー輸送に果たす役割をレイノルズ応力輸送方程式から定式化する方法がある事に気づいておらず,その定式化と乱流の数値シミュレーションにおける計算方法の検討に予定外の時間を費やすことになった.これにより乱流の数値シミュレーションを開始する時期そのものは遅れたが,このスケール間相互干渉効果の定式化はニュートン流体乱流だけでなく,粘弾性流体流れの解析にも有用と期待できるため,この新しい解析手法の発見自体は研究全体を考えるとむしろ重要な成果である.以上の進捗状況を当初の研究計画と比較すると,現時点で本研究は概ね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,乱流回転平面クエット流れの直接数値シミュレーションとスウェーデン王立工科大学における粘弾性流体回転平面クエット流れの実験を並行してさらに進める.直接数値シミュレーションに関しては,スケール間相互干渉に関する乱流統計量を算出するプログラムを計算コードに書き加える作業を引き続き行い,その作業が終了次第様々なレイノルズ数・回転数に関してコンピュータ・シミュレーションを行う.先ずは系の回転がない通常の平面クエット流れの高レイノルズ数条件の場合のシミュレーションを行い,大・小スケールの乱流構造間のエネルギー伝達やそれらの相互干渉により生じるエネルギーの拡散現象などを詳細に調べる.また,安定方向に回転を加えた場合に生じる乱流縞等の大規模間欠構造や不安定方向回転時に生じる大規模渦構造と小スケール乱流構造の間に生じる非線形相互干渉の影響を調べる.同様の計算を粘弾性流体の場合についても数値シミュレーションを行う. 実験に関しても引き続き可視化実験を行う.スウェーデン王立工科大学の実験装置によって実現できるレイノルズ数・無次元回転数の範囲において出来るだけ様々な界面活性剤濃度で可視化実験を行い,レイノルズ数・回転数・濃度という三つのパラーメータに依存してどの様に流れの構造が変化するかを明らかにする.こうした可視化実験を9月頃までに終了し,これにより観察された特徴的なケースに対象を絞ってステレオPIVによる詳細な速度場の計測を行う.並行して行っている数値シミュレーションの結果と比較し,ワイゼンベルグ数・粘性比・モビリティー係数といった粘弾性構成応力方程式モデルに含まれるモデル定数と実際の界面活性剤濃度との関係理解や構成応力方程式モデルそのもののさらなる改善を目指す.
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