研究実績の概要 |
インフルエンザウイルスは、HA蛋白質のシアル酸結合によって細胞に感染すると考えられている。しかし、近年分離されたH3N2季節性インフルエンザウイルスのHA蛋白質は赤血球凝集活性が低下し(Lin et al., PNAS, 2013)、NA蛋白質はシアル酸を介して赤血球凝集することが示唆されている(Gulati et al., PLoS One, 2013)。そこで申請者は、近年のH3N2季節性インフルエンザウイルスはHA蛋白質だけではなくNA蛋白質もウイルスの感染初期に寄与しているという仮説を設定した。その仮説を実証するために、HA蛋白質の赤血球凝集活性が著しく低下したH3N2季節性ウイルスと、HA蛋白質の赤血球凝集活性が低下していないH3N2季節性ウイルスのNA蛋白質の性質を比較し、NA蛋白質のシアル酸結合の意義と、それによるウイルス感染への影響を明らかにする。そこで1年度目は、比較解析するウイルス株を選定し、HA蛋白質の性状を明らかにした。 本年度は、性状比較するウイルス株を選択するために、インフルエンザウイルスの塩基配列データベースに登録されている1968年から2015年までに分離されたH3N2季節性インフルエンザウイルスNA蛋白質のアミノ酸配列を解析した。さらに、選択したウイルスのHA蛋白質の性状を確認するため、ウイルスの赤血球凝集活性と糖鎖反応性を調べた。その結果、近年のH3N2季節性インフルエンザウイルスは、ニワトリ・シチメンチョウ・モルモット血球に対する凝集活性がみられないことが確認できた。さらに、Octetシステムによる糖鎖反応性試験を行い、近年のH3N2季節性インフルエンザウイルスは長い構造のα2,6結合型シアロ糖鎖へ優先的に結合することを明らかにした。
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