本研究の目的は、ルワンダを中心としたアフリカ大湖地域を対象に、暴力的に創出される「国家の歴史」に対して、人びとの共約不可能な記憶が、それとの対処や折衝を繰り返しながら生起している様相をつぶさに記述することである。そこから、その記憶を感知する者とのあいだに個別の歴史が生成し、地域社会のなかで対立関係になった人びとがともに生きるための、共生社会の実現にむけた構想を示していくことを目指す。 平成30年度には、2018年4月2日~23日の期間でルワンダに渡航した。本渡航では、①ルワンダ全国で毎年4月に実施される虐殺記念事業における国家の取り組みと、②それに対する人びとの反応に関する現地調査をおこなうことをおもな目的とした。 ①1994年に虐殺を経験したルワンダでは、毎年4月7日からの一週間を虐殺記念週間と位置づけている。その一週間は全国の行政村を単位として、毎日午後15時より対話集会が開かれる。この集会をはじめとする虐殺記念事業における国家の取り組みは、ひろく「国家の歴史」を普及させる場として機能するとともに、政権の正統性を高めるためにおこなわれてきた。 ②上記のような取り組みのもとでは、個々の凄惨な経験や愛する者の死を嘆き悲しむことができるか否かにおいて、格差をともなう承認の配置がなされており、人びとの感情が規律化される事態が生じていた。他方で調査地の対話集会においては、人びとが他者の痛みを感知し、それに応じる姿がみられた。それは、承認の政治にもとづく市民の創出とその排除の仕組みを乗り越えうる、共生への萌芽として考えられる。 研究成果の一部は、「日本アフリカ学会」や「日本文化人類学会」などの学会の場で発表した。また、『文化人類学』の特集号として論文の投稿をおこない、平成31年3月までに掲載が確定している。さらに、これまでの一連の研究成果を博士論文として執筆した。
|