研究課題/領域番号 |
17J04176
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鹿又 喬平 九州大学, 農学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | セルロースナノファイバー / ナノセルロース / 有機分子触媒 / プロリン / アルドール反応 |
研究実績の概要 |
天然アミノ酸のひとつであるプロリンは、もっとも単純な構造の有機分子触媒の一つであり、アルドール反応やマンニッヒ反応など重要な炭素‐炭素結合形成反応を触媒することから、精力的に研究が行われてきた。プロリンそのものは触媒活性が極めて低く、実用的な収率で生成物を得るためには通常30 mol%程度と多量の触媒が必要となる。そこで触媒活性の向上を目的とし、さまざまなプロリン誘導体が開発されてきた。しかし触媒の構造最適化には多くの試行錯誤を要するため、プロリンをそのまま用いて反応効率を向上させることができれば、有機合成上きわめて有用な方法論となる。 我々はここでセルロースナノファイバー(CNF)に注目し、従来の反応条件にただCNFを添加するだけという、ごく簡便な手法によりプロリンの触媒活性が飛躍的に向上することを見出した。物理解繊CNFやTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)を検討したところ、TOCNが触媒活性の向上にもっとも効果的であったが、物理解繊CNFを用いた場合にも活性向上が見られた。TOCNはファイバー上に高密度のカルボキシ基を有しているが、カルボキシ基を持たない物理解繊CNFでも活性向上が見られること、ナノ化していないTEMPO酸化パルプでは効果がないことなどから、カルボキシ基ではなくナノファイバー自体が本質的な役割を果たしていることが強く示唆された。TOCNは物理解繊CNFに比べ比表面積が大きいことから、本現象はセルロース結晶界面が直接関与する現象であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の初年度においてナノセルロースの存在により触媒活性が向上するという興味深い現象を見出した。ナノセルロースの比表面積が触媒活性に大きく影響することから、ナノセルロースの結晶表面が直接反応に関与していることを示唆する結果を得た。本成果は論文としてScientific Reports誌に発表した。 また、ナノセルロース結晶界面で起こる反応のモデルケースとして、表面カルボキシ化ナノセルロースを触媒とするアセタールの加水分解反応の検討を行った。種々の速度論解析の結果、基質がセルロース結晶の表面に吸着して反応が進行していることを示唆する結果を得た。本成果は論文としてScientific Reports誌に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
触媒活性が向上するという興味深い現象について、今後は反応機構の実験的解明に取り組んでいく。現在のところ、セルロース科学の知見からセルロース結晶疎水面への反応基質の吸着が重要であると考えている。そこで、反応基質および触媒分子とセルロース結晶との相互作用を、核磁気共鳴分光法(NMR)や水晶振動子マイクロバランスなどを用いて解析する。 また、現在のところ反応のエナンチオ選択性の制御が未解決であるため、今後は立体選択性に注力しながら研究を推進していく。触媒構造の最適化に加え、ナノセルロースへの触媒の固定化、ナノセルロースの表面修飾による不斉環境の構築などに取り組む。 さらに、本方法論の一般性を確立するため、アルドール反応以外にもBaylis-Hillman反応やKnoevenagel反応などへのセルロースナノファイバーの効果を検証していく。
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