研究課題/領域番号 |
17J04187
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
清水 陽香 広島大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 認知的方略 |
研究実績の概要 |
本申請課題では,防衛的悲観主義(DP)をはじめとする4つの認知的方略が個人の適応に影響するメカニズムをモデル化し,不適応に繋がる真の悲観主義(RP)や非現実的楽観主義(UO)を使用する個人に適切な方略の学習を促す介入プログラムを提案・検証する。第1年度は,課題場面および対人場面において,先行研究から想定されるモデルに関する包括的な検討を行うことを予定していた。 本年度は,モデル内の複数のプロセスについて調査研究を実施した。その1つとして,社会人サンプルを対象とし,対人場面および学業場面における熟考内容の差異を検討するネット調査を行った。その結果,各認知的方略を用いる個人は,場面によらず同様の内容の熟考を行うことが明らかになった。 さらに,現実の学業場面におけるUO者の存在を確認し,現場の教師がどのように対処しているのかについて情報を集めるため,現役の高校教員にインタビュー調査を行った。自身の学業成績について非現実的に楽観的な見通しを持つ学生が実際に存在し,教師はそうした学生が失敗した後にどのように行動するかに注目していること,その行動によって学生に対する対応を変えていることが明らかになった。今後は,UO者の認知・行動パターンに関する検討の一環として,失敗に類似した場面として自我脅威状況に着目し,自我脅威にさらされた場合に各認知的方略を用いる個人がどのように反応するか,特に原因帰属や自己に対するとらえ方に焦点を置いた実験の実施を予定している。 研究発表については,国内学会において口頭発表1件,ポスター発表2件を行った。さらに,国際学会でも1件ポスター発表を行った。対人的文脈におけるDPの機能について,他の研究者と意見交換を行い,自身の研究に関する重要な示唆を得た。また,これまで行ってきた研究に関する論文3本が査読付き学会誌(うち2本は国際誌)に採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初想定した研究計画についてそのまま実施できたわけではないものの,それは関連研究の渉猟によるものであり,計画変更は妥当であったと考えられる。その上で,本申請課題において重要な研究として熟考に着目した調査を行い,想定した通りの結果のパターンが得られたことは,申請課題が着実に進展していることを意味していると考える。 また,量的研究のみならず,インタビューを通した質的研究を行い,不適応に繋がると考えられるRPやUOについて現役の高校教員から具体的な情報を得られたことは,今後本申請課題を遂行する上で意味のあることであると評価している。特に今後本申請課題の遂行によって得られた知見を,より現実的な場面で用いるために,教育の現場から直接インタビューデータを得られたことは,非常に重要なことであると考えている。 以上をもって,本申請課題はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,特にUO者が過去の失敗に反した高い期待を持つメカニズムを明らかにすることを目的とした実験を行うことを予定している。具体的には,失敗に類似した状況として,課題における低成績という自我脅威場面を設定し,そうした場面でのUO者の原因帰属や自己に対するとらえ方に関する指標を測定する。この実験の結果については,国際学会での発表および査読つき学会誌への投稿を予定している。学会発表や論文執筆を通して,UO者の方略が維持されるメカニズムについてさらなる示唆を得ることを目的としている。 さらに,上述の実験およびこれまで行ってきた研究に基づき,RP者とUO者により適切な方略を用いることを可能にする介入アプローチを考案する。
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