研究課題/領域番号 |
17J04253
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
武野 全恵 名古屋大学, 情報学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
キーワード | 凶器注目効果 / 注意の捕捉 / 注意の狭まり / 文脈不一致 / 情動覚醒 |
研究実績の概要 |
本年度は,これまで記憶観点から検討されてきた凶器注目効果のメカニズムについて,1) 注意の捕捉,2-a) 注意の狭まりの観点から検討をした。本効果によって周辺情報の記憶成績が悪化する説明として,主な2つの仮説がある。1つは文脈不一致説(新奇性説)であり,凶器は日常生活という文脈に不一致であることから注意を引きつけ,周囲への注意の配分を困難にさせるため,周辺情報の記憶が悪化すると説明する。もう一方は情動覚醒説であり,凶器の出現や犯罪現場という状況への覚醒によって注意の狭まりが生じ,記憶成績の低下が起こると説明される。両説から,凶器注目効果の発生には文脈不一致あるいは情動によって,注意の捕捉,注意の狭まりといったバイアスが先行すると予測された。そこで,1) 凶器や文脈不一致の物体,また文脈不一致かつ凶器が注意の捕捉をどの程度生じさせるかを検討した。その結果,凶器に対する注意の捕捉は文脈一致・不一致に関わらず生じ,また凶器でない物体が文脈に不一致である場合にも,注意の捕捉が生じた。したがって,凶器という脅威刺激,また文脈不一致である物体の存在の両方が注意の捕捉を生じさせることを示した。さらに,2-a) 凶器や文脈一致・不一致の物体の出現が注意の狭まりについて及ぼす影響を検討した結果,凶器は文脈一致・不一致に関わらず,注意の狭まりを引き起こす傾向があった。一方で,文脈不一致である物体の出現は,全体の反応時間を遅らせるものの,注意の狭まりは生じなかった。したがって,注意の狭まりは情動覚醒によってのみ生じることが示唆された。以上をまとめると,本年度の研究により,凶器注目効果で前提とされていた注意のバイアスは実際に生じおり,注意の捕捉と注意の狭まりの2点に分けて言及すると,注意の捕捉においては文脈不一致,情動覚醒の両方によって生じ,注意の狭まりは特に情動覚醒によって生じることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では,凶器注目効果に先行すると考えられている1)注意の捕捉と2-a)注意の狭まりについて検討を行うことを目的としていた。特に,1)注意の捕捉に対する検討を優先的に行う予定であった。1) 注意の捕捉については,データの収集はほぼ完了している。また,国内・国際学会におけるポスター発表の中で実験結果に対する考察を深め,次年度中の国際雑誌への投稿・掲載を目標とし,現在執筆を行っている。そのため,1)に関する計画は,おおむね予定通りに達成できたと考えている。また,2-a)注意の狭まりは,凶器が出現する場合で生じることが示された。この実験結果は,凶器注目効果の大きさの変動が,情動覚醒の程度に関連する可能性を示唆し,凶器注目効果のメカニズム解明の足掛かりになると考えている。一方で,本年度に行った実験では,注意の狭まりの程度が弱かったことから,追試実験を行う必要がある。次年度では,凶器による情動覚醒以外に状況による情動覚醒の操作を行った場合,注意の狭まりの効果が増加するか否かを検討する予定であるため,これが追試実験の役割も果たすと考えている。そのため,注意の狭まりに関する検討もおおむね順調に進んでいると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究予定は,2-b) 凶器による注意の狭まりが,場面や状況による情動覚醒によって強まるかを検討すること,3)注意の狭まりの程度が, 凶器注目効果の大きさをどの程度予測するかを検討することである。特に平成30年度の研究では,2-b) の研究の進行を優先する。凶器注目効果が生じる状況では,凶器が出現する以外に,犯罪現場に直面するといった状況による情動覚醒が生じることが考えられる。もし,情動覚醒が注意の狭まりを強く生じさせるのであれば,凶器の出現に加え,犯罪現場に直面するという状況が重なった場合,単なる凶器の出現よりも注意の狭まりを促進させ,凶器注目効果を大きくさせることが予測できる。この点について,本年度で行った実験手続きを改良し,実験を行う予定である。また,2-b)で注意の狭まりと情動覚醒の関係性を明らかにしたうえで,注意の狭まりが凶器注目効果の大きさの変化をどの程度予測するかを調べるため,3)注意の狭まりと記憶成績を同じ実験上でテストすることを計画している。
|