研究実績の概要 |
凶器注目効果では,凶器に対して注意の捕捉や縮小といった注意バイアスが生じ,周囲に注意が向かなくなることで周辺情報の記憶が阻害されると考えられている。そこで,注意の範囲が狭まれば,注意範囲の中心に位置する情報の記憶成績が高くなり,周辺情報の記憶成績が低くなると予測し,本年度では,注意範囲の大きさを実験的に操作することで,中心情報および周辺情報の記憶成績が変化するかについて検討を行った。その結果,中心情報として呈示したネガティブで覚醒する物体はニュートラルな物体と比べてよく覚えられていたという従来の知見 (Kensinger et al., 2006) と一致する結果が得られた。一方で,注意範囲の操作による記憶成績の変化はなかったことから,注意範囲の大きさを実験的に操作したことによる記憶成績の変化はなかったといえる。しかしながら,本来検出されないはずの反応時間の差があった点や,周辺情報に対する記憶成績において床効果が生じた点から,実験を改良し,検討を重ねる必要がある。 本プロジェクトでは,注意の捕捉や注意の縮小などの注意バイアス自体を測定する手法を用いて,凶器注目効果の前段階として生じる注意の変動が文脈不一致である物体の存在によって生起することを示した (Takeno & Kitagami, 2019)。また,従来の注意研究で示されてきたネガティブで高覚醒させる物体による注意バイアス (e.g., Blanchette, 2006) は,本研究ではみられなかったことから,これまで検討されてきた高覚醒ネガティブ刺激に対する注意バイアスは,意味的文脈に依存して変動する可能性を示している。一方で,注意範囲の縮小の程度が,実際に生じる周辺情報の記憶成績の減少をどのくらい予測するかという点については,今後も実験手法を改良したうえで,研究を続けていく予定である。
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