研究実績の概要 |
本研究では、人馴れ・餌付けがエゾリスの人に対する攻撃性を高める可能性について検証した。これまで、人に馴れたり餌付いた野生動物(例えば、北米国立公園のクマや奈良公園のシカ)が人に攻撃的になることが知られている。しかし、人為介入が野生動物の人に対する攻撃性を高めるプロセスについては、未だ科学的に検証されていない。そこで、本研究では過度な人馴れと、都市化による攻撃性の上昇が人への攻撃性の高まりに波及するという新しい枠組みを提示する。餌付けは、野生動物を誘引しエサ台などの局所的な個体密度を高める。こうした環境では、資源を巡る競争が激化し、個体の攻撃性が高まりやすいとされる。そして、こうした攻撃性はしばしば別の対象にも波及すること(漏洩効果Spillover effect)が知られる。つまり、過度の人馴れで全く人を恐れなくなった結果、リスの攻撃性の高まりが人への攻撃性にも波及していると考えた。 約100頭を対象にした野外観察の結果、都市のリスは自然下に比べて、①.人に対して大胆(逃避距離が短い)であること、②.攻撃的な個体間相互作用の頻度が高いこと、③.人に対する攻撃性(モビング行動の頻度)が高まっていることが分かった。しかしながら、都市と自然下のリス60頭を対象に個性(攻撃性、大胆さ、活動性)を測る行動実験(open field test, mirror image stimulation)を実施したところ、すべての個性が都市と自然下で変わらないという予測と反した結果得られた。つまり、野外観察で見られる都市のリスの人に対する攻撃性の上昇は、基本的な行動特性(個性)の変化よりも、人に対する特異的な応答の変化である可能性がある。近年の研究から、大胆な個体ほど攻撃的になりやすいと言われている(行動シンドローム)。人馴れを促し、大胆化を高める餌付けは、逆に人への攻撃性を高める危険性がある。
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