研究課題/領域番号 |
17J04296
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山口 毅志 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | コバルト / ニッケル / 局在 / 重金属集積 / 化学状態 |
研究実績の概要 |
重金属汚染地の緑化や浄化を目指した植物の重金属集積機構解明の上で、微生物は重金属集積と密接な関係が示唆されている。本申請課題では、リョウブ樹体内に生息する内生微生物の内、特に内生糸状菌が重金属集積に関与するという仮説をたて、内生糸状菌が関わるリョウブのニッケル(Ni)、コバルト(Co)集積機構を明らかにすることを目的とした。 本年度はリョウブ葉内重金属に関わる実験として、Co、Ni溶液処理を行い生育させたリョウブに対して、シンクロトロン光を用いたX線分析を行った。リョウブ葉中においてCoは先端に集積し、Niは葉縁に局在しており、各部位での隔離がリョウブの重金属耐性メカニズムであることが考えられた。また、局在部位におけるXANES測定からCoは硫酸、Niは有機酸との結合が示唆された。合わせて葉中の硫酸、有機酸をイオンクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーにより定量分析を行ったところ、Co蓄積したリョウブ葉中で硫酸濃度の増加が確認され、Ni蓄積した葉中では有機酸の内、コハク酸、シュウ酸濃度の増加が確認された。それぞれの物質はリョウブ葉中の液胞内においてCoまたはNiと結合していることが予想された。 内生菌に関わる実験として、リョウブ葉内内生菌において、リョウブの重金属集積性が異なる2サイトでの種組成、重金属への耐性の比較を行った。結果として、2サイト間で5種は共通していたが、異なる種が3種分離され、葉内に集積された重金属の種類が影響していることが考えられた。耐性試験において分離された内生菌のいくつかの種はNiとCoの内、分離されたサイトのリョウブ葉内で高濃度だった重金属によって成長が抑制された。また、分離サイトが異なる場合、同種であってもNiとCoに異なる応答を示したため、分離株間で重金属に関わる特性が変化していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度における特筆すべき研究成果としては、CoとNiのリョウブ葉における局在を、愛知シンクロトロンセンターにおいてX線分析により明らかにしたことである。Coは葉の先端に、Niは葉縁や主脈に局在することが明らかになった。また、CoやNiの局在する部位における有機酸やイオウについても分析をおこなっており、これら重金属の化学形態についても、興味深い知見を得ている。このような元素の局在は、並行して実施している内生菌に関する研究ともリンクしていくものと期待できる。 研究課題となっている内生菌については、リョウブ葉に内生する種を同定し、それらの菌における重金属耐性を明らかにしている。このような知見の蓄積により、次年度には、リョウブにおける重金属集積メカニズムにおける内生菌の役割が解明できると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
地下部の内生菌についても本年度と同様に調べて、重金属との関係性を明らかにする。根や葉において重金属の関係性が深い菌株を決定でき次第、葉、根の内生菌それぞれについてリョウブへの接種試験を行い、重金属集積性の変化を調べる このことにより、リョウブの重金属集積への内生菌の関与を明らかにすることができ、応用可能性を検討できる。 また、これと合わせて、内生菌を接種したリョウブ各器官中の成分や重金属の化学状態の変化を調べることで、リョウブ樹体内における内生菌と重金属の相互作用に関係する詳細なメカニズムを明らかにする。
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