採択2年目である2018年度は、主に津島佑子に関する研究成果の発表を行なった。 2018年9月20日には、「動物と交わる――津島佑子「伏姫」における人間からの逸脱について」と題して、立命館大学での「第9回世界文学・語圏横断ネットワーク研究集会」で発表を行なった。これは、津島「伏姫」における、主人公の女性と猫、犬との関係の描かれ方を分析したものである。ここでは、女性の性欲が動物的とみなされ、差別的な抑圧の対象となるさまと、それを踏まえたうえで、滝沢馬琴『南総里見八犬伝』の異類婚をむしろ肯定的な方向に読み替えていこうとする津島の姿勢を中心に論じた。 10月21日には、「動物の沈黙、死者の沈黙 ――津島祐子『黙市』の連作について」と題して、復旦大学での「第6回東アジアと同時代日本語文学フォーラム」で発表を行なった。これは、津島『黙市』に登場する動物と死者との類縁性に注目したものである。ここでは、本作の「黙市」というキーワードが、柳田国男の山人の伝承をもとに、動物や死者など、私たちを取り巻いている諸存在と、沈黙を保ったまま交渉を続けようとする、津島独自の共同体の構想を提示していることを論じた。 2019年1月12日には、「喪の作業から共生へ ――津島佑子「真昼へ」におけるアイヌの自然観との共鳴」と題して、一橋大学での「セミナー動物のまなざしのもとにおける文学」で発表を行なった。これは、津島「真昼へ」における自然観の変容に注目したものである。ここでは、死んだ息子が好きだった小動物や虫に目を開かれるなかで、おそらくはアイヌのカムイ・ユカラにも啓発されながら、あらゆる自然物が主体として存在しているという世界観に到達した津島文学の帰趨を論じた。
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