研究課題/領域番号 |
17J04333
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
神谷 有輝 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | エキゾチックハドロン / 内部構造 / CDDゼロ / モデル非依存 |
研究実績の概要 |
エキゾチックハドロンの内部構造を観測可能量から探る方法を構築するため、散乱振幅の解析的性質と内部構造との関係を研究した。特に、散乱振幅が消える点であるCDDのゼロと固有状態を表す散乱振幅の極との位置に着目しつつ、非相対論的場の理論によるチャネル結合散乱振幅の解析を行った。この場の理論による考察と、散乱振幅の位相についてのトポロジカルな議論から、他のチャネルに起源を持つ状態の極近傍にはCDDゼロが現れなければならないことが初めて示された。この内部構造と振幅との間の単純な関係が、散乱振幅から内部構造を特定するのに有用であることを示した。また、このような近接CDDゼロが存在する場合には、散乱振幅のBreit-Wigner型ピークに歪みが生じることを示し、実験データから直接構造を探る手がかりとなることを示した。実際にこの方法を、先行研究で得られている piSigma-KbarN 散乱振幅に適用し、エキゾチックハドロン候補の一つである Lambda(1405) バリオンの内部構造を特定した。この内容をまとめた論文は国際雑誌 Phys. Rev. D で出版された。また、本研究内容を各種の国際および国内研究会にて発表した。 加えてフレーバーメソンと中性子二つの三体系における低エネルギー普遍性について、インド・韓国の研究者との国際的な共同研究を進めた。この研究から上記の三体系における束縛状態の可能性を考察した。この研究内容をまとめた論文は、現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
極とCDDゼロは実験データの詳細な解析から原理的に決められるため、昨年度に構築された近接CDDゼロの有無を用いた内部構造の判別方法は、モデル非依存な方法であるといえる。加えて、CDDゼロと構造との関係の導出は、一般的な散乱振幅の解析性を元に行われたため、高次の部分波や、閾値近傍以外の状態、さらにはハドロン系以外にも適用可能であり、広い適用範囲を持っている。上記の特徴から、この方法は今後の様々な構造の探求において適用が期待され、ハドロン構造の探求を大きく進展させる成果といえる。 また本方法の適用によりLambda(1405)バリオンを構成する二つの極の起源を特定することができた。特にこれらのうち小さな質量を持つ Low-mass 極については、その極の位置が閾値近傍にないため、当初想定したハドロン複合性による内部構造の判別は難しかったが、本方法を構築・適用することでその起源を明らかにできたことは大きな成果といえる。 これらの理由から、十分な進展があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の計画としては以下二つを考えている。 (1)今回考案した方法の有効性のさらなる検証を進める。具体的には、チャネル結合散乱振幅のチャネル間結合をZCLから徐々に入れていった際の固有状態の内部構造の変化の振る舞いを調べる。 (2) 新たに考案した方法と、弱束縛関係式による複合性の判定方法を用いて、エキゾチックハドロン候補の内部構造の判別を進める。具体的には、二つの方法の適用に必要な弾性散乱チャネルを実験データの解析方法について研究する。
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