研究実績の概要 |
今年度の研究成果は, 次のものである. 1, 第一ベッチ数が正であるような閉有向4次元多様体に対して, (SU(2)平坦接続に対する)Chern-Simons汎関数の一般化を定義した. 2, 1の値を用いて, 閉有向4次元多様体の不変量の族を構成した. 3, フィルター付きのインスタントンFloer理論の中に, ある元を定義し, 不変量であることを示した. 4, 2,3の不変量を用いて, 3次元多様体から4次元多様体への埋め込みの障害を構成した. 4の結果は次の解析的結果を含む.(4.1 Z被覆的な端を持つ4次元多様体に対して, 適切な境界条件を設定することで, ASDモジュライ空間のコンパクト性を得た. 4.2 Z被覆的な端を持つ4次元多様体上のASDモジュライ空間の向き付け可能性を示した. 4.3 Z被覆的な端を持つ4次元多様体上のASDモジュライ空間の横断性を満たす摂動のクラスを構成した. ) 5, 2,3の不変量を具体例に関する計算を行なって, 4の結果を用いて, 具体的な3次元多様体と4次元多様体に対して埋め込みの非存在に関する結果を得た. 意義と重要性について説明する. 埋め込みの存在問題は微分トポロジーにおける古典的問題である. 私は, 5においてあるSeireft ホモロジー球面は, ホモトピーS1*S3という4次元多様体のクラスにH_3を生成するような埋め込みが存在しないことを示した. これは既存のゲージ理論では捉えられなかった情報であり, 埋め込みの存在問題に部分解を与えるものである. 4.1は, Z被覆上のを用いた不変量の定義可能性を示唆するものである. 今後の2年間で, このコンパクト性定理をさらに一般化することで, よりゲージ論的に深い情報を取り出すことが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究の目的はZ被覆上のゲージ理論の発展とその低次元トポロジーへの応用である. 当初は, 低次元トポロジーへの応用のうち, 基本的であると思われる不変量の構成を想定していた. 故に初年度は, 不変量を定義する上で重要になるZ被覆に対するASDモジュライ空間のコンパクト性を調べることを目標とした. コンパクト性を決定するとき, 実際にどのような発散列があるかを構成して示すことが重要である. だが, Z被覆上の平坦でない有限エネルギーインスタントンを実際に構成することは容易ではなかった. そこで, Z被覆的端とシリンダー状の端を持つ4次元多様体に対するインスタントンを考察することで, シリンダー状の既存のインスタントンを張り合わせ, モジュライの次元が1であるような境界条件とその例を構成することができた. 結果として, 周期的端をもつ4次元多様体に対するASDモジュライ空間のコンパクト性を確立する手段を得た. その十分条件を構成する際に, 3次元多様体のChern-Simons 汎関数を4次元多様体に一般化する方向性が自然に生まれた. シリンダー状の端を持つ4次元多様体に対しては, インスタントンFloer理論と呼ばれる理論がある. 故に, 周期的端の情報をシリンダー状の端へ押し付けることによって, 埋め込みの障害が構成できることがわかった. その際, 私が示したコンパクト性定理の制約からフィルター付きのインスタントンFloer理論を用いる必要性が出てきた. フィルターを用いる発想からDonaldsonやFroyshovが定義していた不変量をフィルター版に一般化する方向性を得た. 結果として, 埋め込みの存在問題に関する帰結を得た. 結果として得られたコンパクト性定理は, 周期的端だけを持つ場合としてかけるため, 当初の目標を達成されている.
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今後の研究の推進方策 |
インスタントンFloer理論をモデルとして, ホモロジーS1*S3の不変量をZ被覆のインスタントンを用いて構成するためには, 全てのSU(2)平坦接続を境界条件として持つようなモジュライ空間のコンパクト性を考察する必要がある. 私が初年度考察していた境界条件は自明平坦接続に関するものである. 故に境界条件を一般の平坦接続に拡張しコンパクト性定理を示す必要がある. これが今年度の目標の一つである. このコンパクト性は, 3次元多様体とRの直積の場合にはすでに構築されている. 3次元多様体とRの直積の場合には, 複体収束性と呼ばれている. この複体収束性がZ被覆上のインスタントンに対しても成立するような, 位相的条件を見いだすことが一つのステップとなる. この位相的条件を考察する際に, 私が以前考察していた, SU(2)平坦接続のモジュライが有限集合であるような3次元多様体からのある仮定を満たす埋め込みの存在を仮定することを考えている. この仮定によって複体収束性に現れるエネルギーの低い部分が広がっていくと, 必ずXの有限巡回被覆の平坦接続が現れる. これによりエネルギーの低い部分にどのような平坦接続が現れるか考察していき, 複体収束性を得るつもりである. また, 不変量の作る際に当初はZ作用を用いてモジュライ空間を割ることを考えていた. しかし, 割ったモジュライ空間の次元は割る前の次元と一致していることが原因で, Morseホモロジー的な考察ができない. これを改善するため, モジュライの次元を1下げるような枠組みを考察した. これはある仮定を満たす3次元多様体からの埋め込みを用いて定義される. このモジュライの次元を下げる操作と上記の複体収束性を組み合わせることで不変量を構成するつもりである.
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