研究実績の概要 |
私は前年度, Z被覆状の端を持つ4次元多様体に対してASD方程式の解のモジュライ空間のコンパクト性を考察し, トポロジーへの応用を導いた. その際, ホモロジー3球面 Yに対して, フィルター付きインスタントンFloer1次コホモロジーに値を持つ不変量の族を定義していた. 佐藤光樹氏は, ”この不変量が消える一番大きなfilterの値”がホモロジー同境不変量となることを予想した. 私は, その予想を示すことで, ホモロジー3球面 Yに対して不変量r_s(Y)を構成し, それがホモロジー同境で不変であることを示した. 私は, r_s(Y)を無限個のSeifert 3-manifoldに対して計算した. この不変量を持ちいることで, ある仮定を満たすホモロジーS^1*S^3に対して無限大を許す実数値不変量の族を得ることができる. さらにその不変量は, Seifert 3-manifoldとS^1の直積に対しては, そのSeifert 3-manifoldのr_sの値と一致することがわかる. すなわち, 私は, 無限個のホモロジーS^1*S^3に対して不変量の計算を行なった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究の目的はZ被覆上のゲージ理論の発展とその低次元トポロジーへの応用である.低次元トポロジーへの応用のうち, 基本的であると思われる不変量の構成を想定していた. 上述したように, 私はある仮定を満たすホモロジーS^1*S^3に対する無限大を許す実数値不変量の族を得ている. よって, その目標は部分的に達成されている. また, 不変量の構成だけにとどまらず, いくつかのホモロジーS^1*S^3に対して計算を行なった. また, r_sの結果によって私が1年目に得ていた定理の適応範囲が大幅に広がった.
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今後の研究の推進方策 |
r_sを用いて, ある仮定を満たすホモロジーS^1*S^3に対して無限大を許す実数値不変量を定義した. 方針について説明するため, r_sの性質についてより詳しく述べる. 私は, 古田氏・Fintushel-Ster両氏が発展させたorbifoldゲージ理論をフィルター付きインタントンFloerコホモロジーの言葉に翻訳し, ホモロジー3球面Yに対して無限大を 許す0以上の実数に値をとる不変量 r_s(Y)を導入した.この不変量は次の性質を満たす. Y_1からY_2 への交差形式が負定値のコボルディズム Wが存在するとき, r_s(Y_2 ) ≦ r_s(Y_1 )を満たす. 特に,Wが単連結の場合, r_s(Y_2) < r_s(Y_1)を満たす. この性質から, r_s(Y)は, ホモロジーコボルディズムによって不変であることが従う. この性質によって, ホモロジー3球面をH_3(X)の生成元として含むホモロジーS^1*S^3に対しては不変量を定めることができる. この仮定を外すためには, 不変量 r+をより一般の3次元多様体に広げる必要がある. しかし, インスタントンFloerホモロジーは一般の3次元多様体に対して定義されていない. 一方, r_s(Y)型の不変量のみ定義できる可能性はある. この可能性を追求することが来年度の課題である.
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