研究課題
本研究課題の研究成果は2018年6月に英科学雑誌「ネイチャー」に掲載された。この研究では、アルマ望遠鏡を用いて赤方偏移4.3(およそ120億年前に相当)の時代にある爆発的な星形成活動を伴う銀河を0.09秒角というこれまでにない高い空間解像度で観測を行い、星形成の材料となる分子ガスの分布・運動を詳細に調べた。観測した銀河は総星質量が1e11太陽質量と、この宇宙初期の時代においては、最も重いことが知られている。現在宇宙では最も重い銀河と言えば、楕円銀河であり、本研究課題『円盤銀河から楕円銀河への進化過程』を解き明かす上で、最良のターゲットと言える。現在の宇宙においても、爆発的な星形成を伴う銀河は稀に存在しているが、その多くは銀河の衝突合体が引き金となって、角運動量を失った分子ガスが銀河中心に落ち込むことで、星形成が活発化していると考えられている。アルマ望遠鏡によって取得したデータの質は期待していた以上に高く、ターゲットである銀河は爆発的な星形成活動を伴っているのにも関わらず、合体の兆候は見られず、きれいな回転円盤が観測された。この回転円盤における分子ガスの自己重力とそれに逆らう力のバランスの定量的な評価を行い、自己重力が勝ることを明らかにした。現在の活発な星形成活動が持続すると仮定すると、1億年程度で全ての分子ガスが星に変換される見積もりになり、重力不安定な円盤で効率的かつ爆発的な星形成活動が起きていると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究計画の柱は、電波サブミリ波干渉計ALMA望遠鏡を用いた遠方銀河の観測にある。従って今年度は遠方銀河の観測を行う2本の観測提案書を提出し、幸い2本とも最優先課題として採択していただいた。2本の提案書を合わせた総観測時間は26時間に及び、これは東アジア地域での遠方銀河研究に割り当てられた全観測時間の~10%に相当する。採択された2つのプロジェクトの1つは2018年11、12月に観測が完了し、12月中に全ての観測データが手元に届いた。このプロジェクトでは、赤方偏移4.3(およそ120億年前に相当)の時代にある爆発的な星形成活動を伴う銀河をターゲットとし、窒素と酸素の輝線放射を観測するものである。この時代の銀河にあるガスの金属量はほとんど測定されていないが、今回のアルマ望遠鏡の観測によって窒素と酸素の輝線の両方を検出することに成功した。すでに検出していて一酸化炭素分子輝線や炭素原子輝線の観測データと組み合わせ、この爆発的星形成銀河ではすでに太陽近傍と同程度まで、化学進化が進んでいることを明らかにした。2018年12月、2019年1月は集中的にデータの解析を進め、2018年2月に論文の原稿を執筆・投稿し、2018年3月に受理された。したがって当初の計画以上に進展していると評価できる。
2018年度に採択された2つ目のアルマ望遠鏡の観測プログラムでは、同じく赤方偏移4.3(およそ120億年前に相当)の時代にある爆発的な星形成活動を伴う銀河をターゲットとし、以前観測したものとは別の一酸化炭素輝線を観測する(CO J=7-6)。0.04秒角というさらに高い空間解像度が達成できる見込みであり、以前のデータでは明らかにすることのできなかった中心コアの運動学構造を明らかにする計画である。観測は2019年の6月と9月に実行される予定であり、今後はこのデータを速やかに解析し、世界に先駆けて成果を発表したい。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 6件、 査読あり 7件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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