研究課題/領域番号 |
17J04474
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
越智 幹仁 神戸大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 国際商事仲裁 / 国際商事裁判所 / フランス仲裁法 / ヨーロッパ民事訴訟法 / EU民事司法協力 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、多数の当事者が関与する国際商事仲裁において、仲裁合意に署名していない第三者を仲裁手続に参加させることを正当化する理論について明らかにすることである(いわゆる仲裁合意の人的範囲の「拡張」の問題である)。 研究を進めるために、9月にロンドンとパリにおいて、商事裁判所や国際商業会議所(ICC)などを訪れ、実務家や研究者と面会して、多数当事者仲裁や、その他の国際商事仲裁を取り巻く理論的・実務的な問題点についてご意見を伺った。 当該研究の遂行にあたり、特に、第三者の仲裁手続への参加を柔軟な条件の下に広く認める判例法理を定立しているフランス法に着目した。またその判例法理の背景にある、国際仲裁はいかなる国家法秩序から自律した超国家的(transnational)な法秩序を構成するという、フランスに特有な国際仲裁に関する観念も含めて調査した。 従来国際仲裁は国際取引における紛争解決手段として中心的な役割を占めてきた。しかし近年は多数当事者仲裁をはじめとして、仲裁の制度としての限界が指摘されている。この傾向は特に投資仲裁の分野で顕著であるが、商事においても、シンガポール国際商事裁判所の開設など、裁判所による手続を再評価する動きが目立つ。またEUでは、民事司法協力の一環として、構成国裁判所の判決を相互に承認執行する枠組みが整備されており(ブリュッセルI規則)、その運用が仲裁実務に重大な影響を与えている。そこで、多数当事者仲裁という比較的ミクロな視点に加えて、国際商事仲裁に対する近時の批判や、仲裁によらない国際商事紛争の解決手段の模索というマクロな視点も獲得し、両方の視点から調査を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
9月にロンドン、パリにおいて調査活動を行った。ロンドン商事裁判所では裁判官から情報の提供を受けるとともに、商事裁判所での手続を2件見学した。紛争解決センター(CEDR)では、国際商事紛争や国際投資紛争の解決手段として近年注目される調停について、その手続の進め方や調停人の訓練などについて説明を受けた。ロンドンで法律事務所を訪問して国際仲裁の実務に詳しい弁護士から、特に投資仲裁に関する最近の動向について伺った。パリでは、パリ第二大学、国際商業会議所(ICC)を訪問し、多数当事者仲裁や国際商事仲裁の問題点、近年設立の動向が著しい国際商事裁判所の評価などについて意見交換を行った。 また、大阪や神戸で開催されたセミナーやワークショップにも参加し、シンガポールの国際仲裁センター、国際調停センター(SIAC、SIMC)、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)といった仲裁機関、調停機関の手続の概要やそれぞれの機関の特徴について情報を得た。 それらを踏まえ、仲裁の国際取引紛争処理制度としての限界や可能性、裁判所での手続の再評価といったより包括的な視座からの研究の必要性を確認した。 これらの調査や研究から得られた成果の一部として、1件の研究報告(於マレーシア)を行い、3本の論文を公表した。
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今後の研究の推進方策 |
国際取引における紛争解決手段としての仲裁の限界や将来の可能性、仲裁によらない紛争解決手段の模索(調停、商事裁判所)というマクロな視点に立った研究をさらに続ける必要がある。とくに、2018年2月にフランス・パリで国際商事紛争に特化した商事部の設立が公式に発表されたことから、再度パリに赴いて調査をする必要がでてきた。 多数当事者紛争に代表されるように、近年の契約法・手続法においては、伝統的に前提とされてきた二当事者間構造では対応できない事例が増えてきている。特に国際取引においては大型で複雑な取引案件が多く、紛争解決の際に二当事者間構造に分解することが適切でない事例も増えている。特に、OBORなどの国境を越えた経済的連結が進むと、建設・エネルギー分野を中心にこの種の紛争が増えることが予想される。 このような国際取引の現実に直面して、今までの仲裁に与えられてきた役割ー法的紛争について、(裁判所に代わって)法を宣言することによって解決する(iurisdictio)ーは変容していくのだろうか。調停や商事裁判所という選択肢が見直される中、国際紛争解決手段としての仲裁の魅力はどのように維持されるべきであろうか。このような問題意識を持って、今後の研究を進めたい。
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