本研究の目的は、多数の当事者が関与する国際商事仲裁において、仲裁合意に署名していない第三者を仲裁手続に参加させることを正当化する理論について明らかにすることである。昨年度の研究を通じて、国際仲裁における第三者参加という本研究の目的は氷山の一角にすぎず、その根底には国際仲裁(国際取引紛争)における国家法・国家裁判所の役割、国際取引紛争の解決手段の多様化の模索といった、より深淵な問題が存在することが分かった。そこで、本年度は、こうした拡大された問題関心に基づき、フランスにおけるレークス・メルカトーリアの議論や、近年国際仲裁に代わる国際取引紛争解決の手段として注目される国際商事調停に関して研究を進めることにした。 以上の問題意識から、ロンドンの商事裁判所や法律事務所を訪問し、裁判・仲裁・ADRとの連関についての実務や裁判官の役割を調査した。さらに、2018年に始動したばかりのパリ国際商事裁判所の設立を提案したパリ金融センター上級法務委員会(HCJP)の事務局長やパリ控訴院第一院長、パリ商事裁判所所長らとも面会し、新しい国際商事裁判所の概要や、調停や仲裁との連関などを聴取した。そのほか、イングランド、シンガポールやフランスにおける調停や仲裁の実務や関連する判例についても調査した。 以上の研究の傍ら、研究報告を3件行った(うち2回は英語である。海外報告1件)。それらの結果の一部であるが、さらに調査を進めて論文にまとめたものを公表を予定している(掲載確定)。問題意識が拡大された分、今年度の成果は部分的なものにとどまるが、しかし有意な進展があったと評価できる。
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