研究課題/領域番号 |
17J04482
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
片岡 知里 東洋大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | メダカ / 銀ナノ粒子 / 免疫 / 腸内細菌叢 |
研究実績の概要 |
銀ナノ粒子は,高い抗菌性を持つことから衛生用品や農薬等として多用されているナノオブジェクト(外寸の少なくとも一辺が100 nm以下の物質)の一つである。既に銀ナノ粒子は水生生物に対して致死,形態異常の誘導等の毒性影響を与えることが報告されているため,使用後,下水等を経由して水環境に流入する銀ナノ粒子が水圏生態系に与える影響が危惧されている。しかしながら,実際の環境では生物に致死影響が表れる程の高濃度の汚染が生じた例は少ない。そのため,非致死的低影響の曝露が生物の健康状態に与える影響を評価し,銀ナノ粒子の生態影響を明らかにする必要がある。そこで,本研究では生態毒性研究に国際的に使用されているモデル生物メダカを用いて,銀ナノ粒子が生物の健康状態の維持に必須である免疫系に与える影響,さらに正常な免疫系の働きに重要な腸内共生細菌叢に与える影響を評価することにした。 平成29年度は,1)銀ナノ粒子曝露がメダカの免疫関連遺伝子(nfkb1,nfkb2,およびTNFα)の発現に与える影響評価,2)銀ナノ粒子を曝露されたメダカの臓器(脳,鰓,肝臓,腎臓,脾臓,胆嚢,消化管,生殖巣)および血液に存在する銀ナノ粒子数の定量,3)銀ナノ粒子がメダカの腸管組織に与える影響評価,4)銀ナノ粒子がメダカの腸内共生細菌叢に与える影響評価を行った。 今年度に得られた成果は,国内学会における口頭発表1件,国外における口頭発表2件・ポスター発表2件,総説1件,および筆頭著者として国際学術雑誌に3報の論文として発表した。また,参加・発表した国際会議においてStudent Best Presentation Awardを,第23回日本環境毒性学会研究発表会において若手奨励賞を,第6回エヌエフ基金研究発表会において研究開発奨励賞および優秀賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)銀ナノ粒子曝露がメダカの免疫関連遺伝子(nfkb1,nfkb2,およびTNFα)の発現に与える影響を評価した。その結果,銀ナノ粒子曝露濃度が一定であっても,メダカの成長段階に依存して免疫関連遺伝子の発現パターンが異なることが明らかになった。本結果から,銀ナノ粒子の免疫毒性影響はメダカの成長段階に依存して変化する可能性が考えられた。 2)銀ナノ粒子を曝露されたメダカの臓器および血液に存在する銀ナノ粒子数を,Single Particle-ICP-MSを用いて測定した。その結果,検出された銀ナノ粒子総数の91%以上が消化管(以降,腸と表記する)由来であり,銀ナノ粒子がメダカの腸組織および腸内細菌叢に影響を与えた可能性が考えられた。 3)銀ナノ粒子がメダカの腸管組織に与える影響を評価するために,メダカのパラフィン切片を作成して組織を観察した。その結果,銀ナノ粒子曝露のメダカの腸管下部において,空胞化細胞数の増加傾向,腸内細菌数の顕著な減少を確認した一方,杯細胞数および剥離上皮細胞様細胞数はコントロール群および銀ナノ粒子曝露群間に明瞭な差はなく,顕著な腸組織への曝露影響は観察されなかった。 4)銀ナノ粒子がメダカの腸内共生細菌叢に与える影響を評価するために,腸内容物のメタゲノム解析を行った。その結果,コントロール群および銀ナノ粒子曝露群の腸内細菌叢はともに,Fusobacteria門およびProteobacteria門の二大優占種により構成されており,顕著な差異は認められなかった。一方,宿主の免疫系を活性化させる機能を持つ腸内細菌代謝物量を定量した結果,銀ナノ粒子曝露濃度に依存してメダカ腸管内の代謝物濃度が低下したことから,銀ナノ粒子はメダカの腸内環境を攪乱することで免疫系に影響を与える可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,低濃度の銀ナノ粒子に曝露されたメダカ個体群の生存に与える影響を評価するために,再生産試験を行う。再生産試験を通じて生命表データを記録し,その結果を元に,メダカの個体群増殖速度および環境収容力あたりの絶滅時間を算出して,銀ナノ粒子がメダカ個体群に与える影響を評価する。 一方で,免疫研究モデルとしてのメダカの知見は非常に少ない。そのため,一般的な哺乳類における免疫研究手法(特に抗体を用いたフローサイトメトリーによる血液細胞の分類,ELISA法など)をメダカに適用することは出来ないのが現状である。そこで,マウスを用いて銀ナノ粒子の免疫毒性評価を行い,メダカとマウスの比較生物学的視点を加えながら行う,銀ナノ粒子の免疫毒性メカニズム研究を検討している。
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