研究課題/領域番号 |
17J04506
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
河野 宏徳 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | フォトン・アップコンバージョン / 三重項-三重項消滅 / 自己組織化 / 酸素バリア |
研究実績の概要 |
近年、分子の励起三重項状態を利用した現象が光デバイス等へ応用されており、励起三重項状態の関連する現象が注目を集めている。しかしながら、一般的に励起三重項状態は酸素分子によって消光されるため、励起三重項状態を酸素から保護する方法論の開発は極めて重要な課題である。 三重項-三重項消滅に基づくフォトン・アップコンバージョン (TTA-UC) は、励起三重項状態を利用して、低エネルギーの光を高エネルギーの光へと変換する現象である。特に、生体透過性の高い近赤外光を体内で可視光に変換できれば、光線力学療法等への応用が期待される。そのためには、水中で機能する TTA-UC システムが必要不可欠であり、そのためには水中で三重項励起子を保護するための方法論が必要不可欠である。 これまで申請者は、π共役系発色団の集積構造を利用することで、「酸素バリア能」を発現することを見出してきた。水素結合に基づく高密度の分子集積構造が酸素による三重項励起子の消光を防いでいると推察されていたが、その詳細な機構は明らかにされていなかった。 そこで本研究では、さらなる酸素バリア能の向上と機構の解明を目指した。エーテル結合を用いて親水部を導入した新規アクセプターは、単独成分では水中における構造秩序が低く、溶存酸素存在下では励起三重項が消光され、UC は観測されなかった。カチオン性アクセプターに対して脂肪酸アニオンを混合することで、酸素バリア能が発現し、目的とする UC 発光を観測することに成功した。また、オリゴエチレングリコール鎖を導入したアクセプター分子集合体も溶存酸素で飽和した水中において UC 発光を発現することを確認した。これらの結果から、水素結合に限らず密な疎水性ドメインを形成することで酸素バリア能が発現することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は、以前水素結合を利用した分子集合体において、酸素バリア能の発現に成功していた。この分子集合体形成に基づく酸素バリア能発現のための分子設計指針を一般化すべく、様々な疎水性ドメイン形成のための分子構造を検討した。カチオン性両親媒性アクセプター分子をオレイン酸アニオンのような疎水性アニオンとイオン対を形成させる手法や、アクセプター分子にオリゴエチレングリコール鎖を導入する等、分子の集積密度を向上させる多様なアプローチによって、酸素バリア能を発現しうることを証明した。以前から試みている近赤外光から可視光への変換だけでなく、可視光から紫外光への変換にも成功しており、水中で酸素から励起三重項を保護するための基本となる分子設計指針が確立され、さらなる発展が期待できるため、期待以上に研究が進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は研究実施計画書の通り、酸素バリア能を他の波長域に展開することによる一般化および固体系への展開を目指して進めていく。現在、近赤外光から可視光、可視光から紫外光への変換には成功しているが、ドナーからアクセプターへのエネルギー移動効率が低いため UC 効率に課題が残されている。単純にドナー分子をアクセプター集合体内に取り込むだけでは、エネルギー移動効率が効率よく生じないため、アクセプターの発色団近辺にドナー分子が位置することが必要となる。そのため、アクセプター分子とドナー分子の相溶性も含めて、分子設計の最適化を図る。
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