研究課題/領域番号 |
17J04518
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
宿利 由希子 神戸大学, 国際文化学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 丁寧さ / ポライトネス / 気遣い / 気を遣う / 印象 / キャラ / 人物像 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、①状況と行動を一定にし、行動主体に関する情報(キャラ)のみを操作したら丁寧さの評価はどうなるのか、②ある場面における「気遣い」は、年齢や性別、話者間の人間関係のみから理解・評価されるのかという2点について明らかにすることを目指した。 ①について。日本語学習者の読み上げ音声を用い日本語母語話者対象の丁寧さに関する印象判定を行った。判定者である母語話者を群に分け、話し手に関して異なる情報(日本の日本企業に約2年または10年以上勤務する外国人社員)を与えた上で、同一の刺激音声を聞かせた。その結果、勤務年数情報により丁寧さの評価および丁寧だと評価される言語形式が異なること、すなわち、状況と行動を一定にしても、行動主体のキャラにより丁寧さの評価が異なることがわかった。 ②について。日本語母語話者による合同コンパの会話を談話分析の手法で観察した。従来、男性や上位者の話題導入数が多いこと、また男性上位者には自己に関する話題導入が多く、女性上位者は聞き手に関する話題導入を行う傾向があることが報告されてきた。先行研究では、このような傾向を話者間で共有された「社会規範」と捉え、これに従うことがすなわち丁寧さに繋がるとされてきた。これに対し、分析の結果、最年少の男性による話題導入数が最も多く、その約半数が聞き手に関するものであること、女性1名の自己に関する話題導入数が最も多いことがわかった。両者の話題導入を含む言動は、他の参加者の発話を促す丁寧な気遣いであると考えられる。他の参加者は前者の男性を「営業さん」、後者の女性を「ツッコミ」と呼んでおり、彼らの言動を、年齢や性別、話者間の人間関係以外の要素、つまり話者のキャラから理解・評価しようとしていることが観察された。このことから、「気遣い」は年齢や性別、話者間の人間関係だけでなく、話し手のキャラから理解・評価される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、日本文化古来の概念「気遣い」に着目し、「どのようなキャラの話し手が、どのような状況で、どのような発話をすると、発話の丁寧さが伝わる/伝わらないのか」という、コミュニケーションとミスコミュニケーションを、人間の社会的活動として統一的にとらえる枠組みを作ることを目的とする。 丁寧さに関する従来の研究は、「コミュニケーションの相手が持つ『他者に受け入れられて面子を保ちたい』『他者に干渉されて面子をつぶされたくない』という2つの意向を尊重する行為が丁寧な行為である」という基本発想を持ち、丁寧さが「伝わる/伝わらない」メカニズムを、もっぱら状況と行動だけで捉えてきた。話し手の年齢や性別、話者間の上下・親疎関係を視野に入れた研究もあるが、これらの情報はあくまで話者間で共有された認識であるという前提に立つ。一方「キャラ」は、特定の社会的・文化的グループである程度共有された人物に関するイメージ、人物像を指す。年齢や性別だけでなく、職業、階層、時代、容姿・風貌、性格等を含む概念であり、話者間で認識が異なる場合がある。言語学やコミュニケーション研究において、特に日本語社会はキャラと言葉の結びつきが強いことが報告されており、丁寧さに関してもこの結びつきは無視できない。 平成29年度は、気を遣う場面における発話の言語形式と談話の側面から、①状況と行動を一定にしても、行動主体のキャラにより丁寧さの評価が異なることを明らかにした。また、②「気遣い」は年齢や性別、話者間の人間関係だけでなく、話し手のキャラから理解・評価される可能性が示唆された。さらに①と②から、話し手のキャラは話者間で共有された認識ではなく、キャラに関する話者間の認識の一致や齟齬が丁寧さの伝わり方に影響している可能性が示された。これらの調査結果から、当初の計画以上の進展が達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、①「どのようなキャラの話者が、どのような状況で、どのような発話をすると、話者が利益/損害を受けたと判断され、発話の丁寧さが伝わる/伝わらないのか」という点についての認識と、②「その認識はどの程度日本語母語話者に共有されているのか」という問題を明らかにすることを目指す。 そのため、日本語母語話者による日本語自然会話およびロールプレイの録音・録画と、意識調査を行う予定である。具体的には、平成29年度に引続き、合同コンパの収録と、そこから抽出される「気遣い」に関する発話のロールプレイの収録を予定している。①については、収録した自然会話を談話分析の手法で観察する。②については、自然会話とロールプレイの会話音声や動画の一部を用い、日本語母語話者を対象に質問紙調査を行う。質問紙調査は複数の地域で行い、丁寧さに関する認識の地域差もあわせて観察する予定である。 これらの調査結果をもとに、「丁寧さが伝わる/伝わらない」メカニズムを内容要因(行為自体、行為の表現方法等)、状況要因(場所、時、第三者の有無等)、行為者要因(話し手のキャラ、話者間の上下・親疎関係等)、利益要因(行為による利益/損害の増減)の4つの観点から考察する。
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