研究課題/領域番号 |
17J04561
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
森本 桂子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ミクログリア / 大脳皮質層形成 |
研究実績の概要 |
ミクログリアが脳内の主要な免疫細胞として、定常状態において神経回路の恒常性維持や、脳損傷・神経変性疾患といった病的状態において重要な機能を担っていることが明らかになっているが、胎生期の機能に関しての知見は限られている。そのため、本研究ではまず胎生期のミクログリアの分布及び活性化状態に関して詳細に評価を行った。成体においてはミクログリアが比較的均一に脳全体に分布しているのと比較して、神経細胞が次々と生まれダイナミックな移動を行う胎生期においては、ミクログリアもその局在を大きく変化させることが明らかとなった。また胎生期のミクログリアは比較的活性化していることが示唆され、複雑な大脳皮質神経回路形成においてミクログリアが重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 一方、大脳皮質層形成において重要なReelinシグナルとミクログリアの関連に関しては、初代培養ミクログリアにおいてはその受容体であるApoER2、VLDLRの発現が確認されたものの、胎生期脳の切片の蛍光免疫染色ではそれらの明らかな発現が確認できなかった。そのため、Reelinがミクログリアに対して何らかの作用を持ちうるかに関して他の系での検討が必要である。 また、胎生期ミクログリア特異的分子を検索するためにCx3cr1gfp/+マウスを用いてフローサイトメトリーでミクログリアを回収しマイクロアレイを行っており、今後得られた候補分子に関しても解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大脳皮質発生期におけるミクログリアの分布・活性化状態を解析するために、ミクログリアがGFPで蛍光標識されたCx3cr1gfp/+マウスを用いて脳切片の共焦点顕微鏡観察を行った。その結果、胎生12日(E12)にはミクログリアが大脳皮質に存在するのが確認され、E14までは大脳皮質全体にほぼ均一に分布した。しかし、E16には皮質板(CP)に存在しなくなり、辺縁帯(MZ)及び脳室帯/脳室下帯(VZ/SVZ)、 中間帯(IMZ)に存在し、生後0日(P0)になると再びCPに侵入を始めP14には脳全体にほぼ均一に分布するようになることが明らかになった。ミクログリアの活性化状態としては、胎生期ミクログリアは新生仔期や成体に比べてIba1の染色も強く、より活性化状態にあると考えられた。 また、大脳皮質層形成において重要な分子であるReelinがミクログリアへ与える影響を評価するために、初代培養ミクログリアにおけるReelin受容体(ApoER2、VLDLR)の発現を確認したところ、共に発現を認めた。一方、E12からP7の脳組織切片の蛍光免疫染色においては、ApoER2はMZ及びIMZに発現し、VLDLRはMZに発現を認めたがミクログリアには発現を認めなかった。 さらに胎生期ミクログリア特異的分子を検索するためにCx3cr1gfp/+マウスを用いてフローサイトメトリーでミクログリアを回収しマイクロアレイを行った。
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今後の研究の推進方策 |
ミクログリアの初代培養系ではミクログリアがReelin受容体であるApoER2やVLDLRを発現することが確認できたが、マウス脳切片の蛍光免疫染色では発現が確認できなかったため、Reelinの欠損したReelerマウスを用いてReelin添加によってミクログリアの状態が変化するか等の検討を行う。また、大脳皮質層形成変異体であるreelerやyotariのミクログリアの活性化状態や分布に関して遺伝子欠損マウスの切片を用いて評価する。正常型と比較して差を認めた場合はCx3cr1gfp/+マウスから回収したGFP陽性のミクログリアを遺伝子欠損マウスの脳スライス切片に移植しreal timeでの観察を試みる。 また、クロドロン酸リポソームを用いた予備実験により、胎生期のミクログリア欠損により神経細胞の移動に異常をきたす可能性が示唆されたため、ミクログリア除去の効率を改良し、また複数のミクログリア除去モデルを用いて、神経細胞の移動及び突起形成などに対するミクログリアの関与を詳細に解析する。さらにLPSやpoly(I:C)によるミクログリア活性化のモデルも用いて大脳皮質層形成への影響を評価する。 また、マイクロアレイで得られた胎生期ミクログリア特異的な分子の中で神経細胞とリガンド-受容体の関係にあるものが存在するか既存のデータベース等を活用して検討し得られた候補分子に関して機能解析を進める。
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