研究課題
本研究課題は海底堆積物コアに含まれる浮遊性有孔虫の微量元素・安定同位体分析(特にMg/Ca比、酸素同位体、ホウ素同位体)を通じて、鮮新世以降の海洋環境を復元することを目的としている。年次計画通り、本年度は練習用試料として位置付けている西赤道太平洋の海底堆積物コア(KR05-15 PC01)を用いて、一連の実験手順を立ち上げることを主たる目的とした。まず、必要な器材類を購入・組み立てるとともに、実験手順の最適化を試みた。Mg/Ca比をICPMSを用いて安定して分析するため、試薬の濃度や希釈率、内標準の選定を行い、最適な手順を作成した。また、MC-ICPMSを用いたホウ素同位体分析に関しても、スキマーコーンやアンプの調整を行うことで、測定精度を維持したまま、従来の3分の1程度まで量を減らした測定を可能にした。西赤道太平洋の海底堆積物コアから得られた古海洋記録からは予想を上回る新事実が明らかになったため、当初の計画にはなかったが、年代モデルを改善しよりインパクトの高い学術雑誌に投稿するための追加の実験を行った。具体的には、底生有孔虫の酸素同位体分析と浮遊性有孔虫の放射性炭素年代測定を行い、より厳密な年代モデルを作成することができた。近いうちに学術論文としてまとめ、科学誌に投稿する予定である。本年度立ち上げた一連の実験手順に基づき、本研究課題の主テーマである、西インド洋の海底堆積物コア(IODP Exp. 361 Site U1476)の浮遊性有孔虫についても分析をスタートした。当初は予定していなかったが、ストロンチウム同位体についても、ホウ素同位体測定の際に本来ならば捨てる部分を再利用する形で測定を行なった。ストロンチウム同位体は堆積物の年代決定に有力なツールとなるため、研究代表者を含む、IODPの乗船研究者に大きく貢献する結果を得ることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
ホウ素同位体測定の測定必要量の微量化やストロンチウム同位体測定など、当初予定していなかった実験手法の改良もあり、研究計画がさらに向上した。西赤道太平洋の海底堆積物コアから得られた結果については、予想を上回る新事実が明らかになったため、堆積物の年代モデルを改善するための実験を別途行うことになった。現在はその結果をインパクトの高い学術雑誌へと投稿するため、データを補強するための実験を進めている。
平成30年度は、西赤道太平洋の海底堆積物コアを用いた実験については5月中に終え、6月以降はその結果をまとめつつ、西インド洋の海底堆積物コアを用いた実験を進めていく。その中で、MC-ICPMSを用いたホウ素同位体測定の微量化をさらに進める。というのも、サンプルによってはさらなる微量化を必要とするものもあり、現状測定できないためである。具体的には、MC-ICPMSへの試料導入部に位置するスプレーチャンバーやネブライザーなどを交換・調整することで微量化を実現したいと考えている。試料が十分に得られているものについてはこれまで通り実験を進め、微量でしか測定できないものについてはしばらく保留にする。あるいは、微量測定が可能なN-TIMSを用いるためにしばらくコロンビア大学に滞在することも想定している(平成31年度に半年ほどを想定)。平成30年度も継続して西インド洋の海底堆積物コアの分析を進め、データが十分に整った段階でこれまでの結果をまとめ、国際学術雑誌に論文を投稿する予定である。
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