研究課題/領域番号 |
17J04582
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
深尾 茅奈美 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | カミーユ・ピサロ / 油彩スケッチ / アナーキズム / 象徴主義 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、印象派画家カミーユ・ピサロの芸術理念を、19世紀前半の屋外油彩スケッチ制作からの影響をはじめとする、多角的な観点から考察することにある。昨年度の研究では、ヴァランシエンヌによる屋外風景スケッチ制作との近似性を考察する中で、ピサロが基本的には実景を主題に選びつつも、自身の内的構想に重きを置いた絵画実践を行っていたことが判明した。絵画制作における精神的活動を重視する傾向は、自然を前にした際の直截的な感覚経験を重んじる印象派の理念とは異質なものであり、したがって、この傾向はピサロの芸術理念を解明する上で看過し得ない特質だと判断した。それゆえ、本年度はピサロ作品における思想・精神世界の表現に注目し、2つの作品分析を行った。 ①昨年度に引き続き、1880年代の《りんご採り》(大原美術館所蔵)とアナーキズム思想の関連を考察した。具体的には、果実摘みの図像伝統に関わる補足調査、ならびにポントワーズの地理的特性や当時の農業技術について新規調査を実施した。その結果、ピサロがアナーキズムの達成された平和な世界像を絵画化するにあたり、「黄金時代」の図像伝統を踏襲するのみならず、その舞台として、近代化の進んだ豊かな農村地域を選んでいたことが分かった。 ②1890年代の《小川に足を浸ける女》(シカゴ美術館所蔵)を新たな研究対象に据え、内的表象へと向かうピサロの芸術傾向を考察した。まず、水浴に関する歴史的資料を精査し、画中の光景と現実の実践との相違を確認した上で、自然回帰の思想との関わりに注目しながら、水浴という行為が包含する象徴的意味を考察した。また、書簡の記述を基にアルベール・オーリエの象徴主義芸術論に対するピサロの見解を分析し、彼が基本的には観念の絵画化に肯定的な立場を取っていたことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度から蓄積してきた研究成果を、学術論文、ならびに国内外の学会で発表する機会を得た。まず、《チュイルリー公園とフロール翼、白い霜》の作品研究に関しては、これまでの考察を論文にまとめ、査読を経て、学術雑誌『哲学研究』 603号(京都哲学会)に掲載された。 さらに、《りんご採り》の作品研究については、5月に東北大学で開催された美術史学会全国大会で口頭発表を行った後、6月にパリ・ナンテール大学で開かれた国際美術史学会「エコール・ド・プランタン」にて、フランス語による口頭発表を行った(いずれも審査あり)。 また、本年度より始動した《小川に足を浸ける女》に関する作品研究は、審査を経て、2019年6月22日に京都工芸繊維大学で開催される日仏美術学会若手シンポジウムにて口頭発表をすることが決定している。本シンポジウムの発表内容は、学術雑誌『日仏美術学会会報』に投稿する予定である。 これらの研究成果の発表と並行して、海外調査も実施し、基礎資料の収集に努めた。6月にはパリに短期滞在し、オルセー美術館の資料室で《りんご採り》と《小川に足を浸ける女》の補足調査を、フランス国立図書館で《りんご採り》に関わる農業技術書の調査を行った。パリでの調査により得られた資料は、今後、論文を執筆する際の基礎文献となる。 以上の成果発表状況と調査の進捗を鑑みて、本年度の達成度を「おおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2019年より神奈川県立近代美術館の非常勤学芸員に採用されたため、本年度をもって特別研究員を辞退することになったが、今後も引き続き研究を遂行する所存である。神奈川県立近代美術館は科学研究費補助金の対象機関でもあり、今後は学芸員としての立場から美術史研究の発展に貢献し、その成果を広く社会に発信していきたい。
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