本研究では、ヒトiPS細胞由来肝細胞の創薬研究への応用を見据え、高機能なヒトiPS細胞由来肝細胞の作製を目的としている。これまでに、肝細胞の培養上清を用いてヒトiPS細胞由来肝細胞を培養することで、ヒトiPS細胞由来肝細胞のグルタミン産生能や薬物代謝能の向上が認められた。また、この現象に肝細胞から産生されるWNT7BおよびWNT8Bが関与することも明らかとした。そこで、分化誘導技術の改良としてヒトiPS細胞由来肝細胞へWNT7Bの遺伝子導入を行った。その結果、WNT7Bを遺伝子導入したヒトiPS細胞由来肝細胞では、肝細胞の培養上清を用いた場合よりも、高いグルタミン産生能を示した。この結果から、WNT7Bの遺伝子導入によってヒトiPS細胞由来肝細胞の一部の肝機能をさらに向上できることが示唆された。 また、ヒトiPS細胞由来肝細胞の創薬研究への応用を見据えると、ヒトiPS細胞由来肝細胞をその性質を維持したまま凍結保存・再培養可能であることも重要になると考えられる。そこで、ヒトiPS細胞由来肝細胞の汎用化に向けて、このような操作によるヒトiPS細胞由来肝細胞の性質への影響を評価した。分化誘導したヒトiPS細胞由来肝細胞を剥離して単一の細胞にした後に、まずは細胞を凍結する段階を挟まずに、再び培養皿へと播種して培養(再培養)を行い、これらの操作の影響を評価した。その結果、ヒトiPS細胞由来肝細胞は再培養直後から、肝細胞マーカーの遺伝子発現量が低下した。この結果から、ヒトiPS細胞由来肝細胞の汎用化に向けて、分化誘導したヒトiPS細胞由来肝細胞の剥離・再播種操作法の改良や再培養時の機能維持法の開発も重要な課題と考えられた。
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