研究実績の概要 |
密度汎関数理論 (DFT) に基づく第一原理計算によりルチル型TiO2を超える高屈折率透明材料の設計指針を見出し、パルスレーザ堆積 (PLD) 法により希土類-銀系薄膜を作製した。DFT計算ではデラフォサイト型結晶構造CuLuO2が高屈折率透明材料として有望と示唆されたが、層状構造は原子の空間充填率が小さく電子密度が低くなるため高屈折率を示しにくいことも判明した。そこで、結晶構造でなく電子構造に注目した材料設計を試み、s2p6d10電子配置を有する1価の金、銀、銅イオンとd,f軌道のみが空軌道となるカチオンを組み合わせることを着想した。この二種のカチオンからなるイオン結合性材料はバンドギャップ近傍に大きな状態密度を示す故、電子分極が大きくなり高い屈折率を示すと期待される。この設計指針と、O2p軌道とのエネルギー的な近さや価電子帯上端と伝導体下端の状態密度のバランスを考慮し7.1 mol%Ag添加希土類(Sc,Y,Lu)酸化物をPLD法によって作製し出現相と光学特性の評価を行った。PLDターゲットはAg粉と希土類三酸化物粉末を混合、焼結して作製し、PLD行程では励起源にKrFエキシマレーザを用いガラス基板上に高真空中もしくは0.5-7 Paの酸素ガス中で膜厚100 nm程度の薄膜を作製した。Sc2O3とLu2O3薄膜では7.1 mol%Ag添加により屈折率が透明性を維持したまま向上したと判明した。これら薄膜ではAgやAg2Oに帰属されるXRDピークが見られず、XPSによるAg3dスペクトルの分析からもAgやAg2Oに帰属されないピークが見られたため、添加されたAgは母相酸化物に熱力学的非平衡的に固溶していると示唆された。また、ウルツ鉱型部分窒化ガリウムリンもDFT計算により新たな高屈折率透明材料になると示唆され、イオンビームアシストPLD法による合成準備を進めた。
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