研究課題/領域番号 |
17J04780
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
松戸 竜太郎 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 閉じ込め / QCD / 双対超伝導描像 |
研究実績の概要 |
今年度は以下の3つの方向性に関して進展があった。 1.QCD弦の相互作用を再現しうる模型として、双対ゲージ理論におけるセンター・ボルテックス解が考えられる。今年度の研究においては、センター・ボルテックス解を持つ模型として二つの随伴スカラーをもつ双対SU(2)ゲージ理論を考えた。先行研究において考えられていなかったような随伴スカラーに対するポテンシャルにおいても、あるパラメータの範囲においては、ANOボルテックスとは異なる方程式に従うようなボルテックス解が存在することを確認した。 2.場の分解によってウィルソン・ループに対する磁気モノポールの寄与を取り出すことができるが、ウィルソンループが高次元表現に属する場合には、素朴にはうまくいかないことが知られていた。今回の研究においては、非可換ストークスの定理から示唆される演算子を場の分解から素朴に定義される演算子のかわりにもちいることで、この問題は回避可能であることを格子シミュレーションによって示した。格子シミュレーションはSU(2)の随伴表現の場合、及びSU(3)の随伴表現、セクステット表現の場合においてなされた。 3.場の分解の方法を応用することで、ローレンスゲージ固定したヤン=ミルズ理論に単にグルーオン質量項を加えた模型をゲージ不変な模型に拡張できる。この模型は純粋なヤン=ミルズ理論の有効模型とみなせる。今年度の研究においては、この理論のグルーオン・プロパゲータおよびゴースト・プロパゲータを1ループの量子補正を含めて計算した。ゲージ群がSU(3)の場合について純粋なヤン=ミルズ理論の格子シミュレーションの結果と比較しよく一致していることをみた。また、すべてのパラメータ領域において鏡映正値性が破れていることが確認された。この結果はすべてのパラメータ領域におけるグルーオンの閉じ込めを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は3つの方向性に関して進展があった。 1つ目の進展については今年度の当初から計画されていたものである。研究実績の概要に書いたように、これまで考えられてこなかった形のポテンシャルを考え、新しいセンター・ボルテックス解を発見した。また、あるパラメータの範囲については、新しく発見された解がこれまで多く議論されてきたANOボルテックスと同様の方程式を満たすセンター・ボルテックス解よりも弦張力が小さくなることがわかった。そのため、QCD弦の模型として新しく発見された解のほうが適しているという可能性がある。 2つ目の進展は、ウィルソン・ループが高次元表現に属する場合について、磁気モノポールの寄与を取り出すための適した演算子を発見したというものである。高次元表現に属するカラーソース間の弦張力を再現できないということは、磁気モノポールによる閉じ込め描像の問題の一つとして知られていた。今年度の研究によって、この問題に対するひとつの解決法が示されたことになる。これについては年度当初の計画にはなかったが、「場の分解に基づいて定義された磁気モノポールによって閉じ込めを説明する」という研究全体の目標にとって重要な進展と言える。 3つ目の進展は、当初の計画にはなかった新たな進展と言える。これまで考えられてきた場の分解においては、ゲージ場を二つの部分に分解する際、カラー場と呼ばれるゲージ場の汎関数を、随伴表現空間に値をとるものとして定義したが、今回はカラー場を基本表現空間に値をとるものとして定義したものを用いている。これは場の分解に基づいて閉じ込めを理解しようとする試みに対してあらたな視点を与えうる。結果としては、この場の分解に基づいて定義されたゲージ不変な質量項を含む理論は、純粋なヤン=ミルズ理論の有効模型とみなしうることがわかった。 総合すると、今年度において研究は順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として以下の3つの方向性が考えられる。 1.今年度の研究において、SU(2)ゲージ理論におけるQCD弦の模型として、二つの随伴スカラーを持つ双対SU(2)ゲージ理論のセンター・ボルテックス解を探索したが、今回発見した解は空間を二次元とした場合の解、すなわち三次元空間においては無限にながい渦糸解である。しかし、QCD弦の模型としては有限の長さのものが望ましい。よって今後の研究として有限長さのセンター・ボルテックス解を探すということが考えられる。有限の長さの渦糸解を構成するには、無限に重い磁気モノポールを外場として導入し運動方程式をとけば良いと思われる。 2.今年度の研究によって、高次元表現に属するウィルソン・ループについては、場の分解によって定義される磁気モノポールの寄与によってその振る舞いを再現しうることが示された。しかし、同様に、場の分解を素朴に適用することで磁気モノポールの寄与を取り出したとしても、その振る舞いを再現できないとされている二重巻きのウィルソン・ループについては、未だ解決策は得られていない。ただ、この問題についても、高次元表現に属するウィルソン・ループと同様に、適切な演算子を場の分解から素朴に定義される演算子の代わりに用いることによって、回避可能であると考えられる。今後の研究としてこの適切な演算子を探すということが考えられる。 3.今年度の研究においては、純粋なヤン=ミルズ理論にグルーオン質量項を加えた模型を、1ループまでの量子補正を含む形で調べた。今後の研究としてグルーオン質量項の効果を格子シミュレーションによって調べるという方向性が考えられる。場の分解を用いることでグルーオン質量項をゲージ不変に定義可能であるため、格子シミュレーションで調べることが可能となる。
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