研究実績の概要 |
本研究課題は、刺激応答性高分子・生体膜透過ペプチドの複合体を精密設計し、脂質二重膜に作用させることで外部刺激により可逆的に脂質二重膜のシート・ベシクル構造転移を誘起可能な「自律応答型脂質デバイス」の創製を目指すものである。 本年度は、高分子材料の設計としてカチオン性のpoly(allylamine) (PAA)を主鎖に、側鎖に親水性のdextran (Dex)と温度応答性のpoly(N-isopropylacrylamide) (PNIPAAm)をもつ混合グラフト共重合体 (PAA-g-PNIPAAm/Dex, PAND) を検討した。ここでは共重合体の親・疎水性を制御するため、種々のDex導入率の共重合体を調製した。PANDは生体膜透過ペプチドE5と複合体を形成し、E5のヘリックス構造を誘起した。さらに、E5/PAND複合体をリポソームに作用させたところ、温度応答性高分子PNIPAAmの相転移とカップリングして脂質膜形態の温度依存性を持つこと及び温度変化による脂質膜形態が制御できる可能性が示された。特に、シート・ベシクル形状制御において、温度応答性/親水性側鎖の導入率を適切に制御することで効率よく形態制御が達成できることが示唆された。これは高分子材料により、二次元脂質膜エッジの安定性が操作可能であることを示すものであり、生体膜の動的な振る舞いの解明や、新しい生体材料創製につながると考えられる。 さらに、E5の作用において検討したところ、E5は流動的な膜には相互作用したが固体的な膜には相互作用しなかった。さらに、カチオンくし型共重合体存在下において、この膜に対する選択性を維持しつつ、液体的な脂質膜においてE5の膜透過性の活性化がみられた。他にも精密ラジカル重合法を利用した新規なリポソーム表面への高分子鎖修飾法の開拓にも成功している。 一連の成果は、国内外の学会にて発信に務めた。
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