研究課題/領域番号 |
17J04796
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
鈴木 美有紀 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / モデル生物 / 器官再生 / 両生類 / 遺伝子ノックアウト / トランスクリプトーム解析 |
研究実績の概要 |
イベリアトゲイモリは高い再生能力と繁殖能力を持つ有尾両生類であり、近年、新規の器官再生モデル動物として期待されている。本申請課題ではイベリアトゲイモリにおける生命科学研究に必要なゲノム編集技術を開発し、さらにこの技術を応用して四肢再生に関与する遺伝子の機能解析を行い、器官再生のメカニズムを解明することを目的としている。 一般的に両生類は性成熟に要する期間が長く、迅速な遺伝子機能解析を行うためには当世代で高効率な遺伝子破壊を行うことが理想である。そのため当該年度は、CRISPR-Cas9システムを用いた高効率な遺伝子ノックアウト技術の開発を行った。イベリアトゲイモリにおける有用性を検証するため、色素合成遺伝子であるチロシナーゼ(tyr)、眼形成のマスターレギュレーターであるpax6、前肢の発生に重要な転写因子であるtbx5の破壊を試みたところ、すべての標的において当世代でシビアな表現型を高効率に得ることができた。さらに変異導入効率を正確に評価するため、これらの胚からゲノムDNAを抽出して標的領域をアンプリコンシークエンスにより解析した。その結果、1万リード以上解析しても検出される野生型のアレルが1%以下であった。つまり当世代でありながらほぼすべての体細胞に変異が導入されていることが明らかとなった。 また、四肢再生芽で発現する機能分子を網羅的に同定するため、ショットガンプロテオミクス解析を行った。しかしタンパク質の同定率が不十分であり、リファレンスに用いるデータセットの質の向上が必要であると考え、大規模なトランスクリプトーム解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規のモデル生物であるイベリアトゲイモリにおいて、当世代における高効率な遺伝子ノックアウトシステムを確立し、四肢再生に関与する遺伝子の迅速な機能解析が可能となった。 四肢再生芽のオミックス解析においてはリファレンスのcDNA配列データセットの改善の必要性が生じた。そのため国内の研究者らと共に四肢再生芽を含む多様な組織や胚由来のトランスクリプトームデータを合計254Gbp取得し、イベリアトゲイモリの全転写物配列のデータセットを構築した結果、脊椎動物で共通の遺伝子リストのほぼ全てを網羅する、非常に質の高い遺伝子カタログの取得に成功した。これを用いて四肢再生芽で発現する約2万のタンパク質を同定し、さらにトランスクリプトーム解析により四肢再生にユニークな遺伝子群を新たに明らかにした。これらの技術基盤は今後のイベリアトゲイモリにおける器官再生研究を大いに促進させる重要な成果であると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本年度確立した高効率遺伝子ノックアウト技術を用いて、四肢再生に関与する遺伝子の機能解析を行う。オミックス解析により明らかになった四肢再生芽特異的な遺伝子群の知見と合わせ、器官再生メカニズムの解明を試みる。
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