研究課題/領域番号 |
17J04798
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
奥村 佳亮 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | フォトン・アップコンバージョン / 三重項-三重項消滅 / 近赤外光 |
研究実績の概要 |
本研究では、三重項-三重項消滅(TTA)に基づくフォトン・アップコンバージョン(TTA-UC)における新規エネルギー生成・回収法の開発に取り組んでいる。従来のTTA-UCシステムには、三重項増感過程におけるエネルギー損失により、変換される波長の幅(アンチストークスシフト)が縮小されるという本質的な課題が残されている。さらに、近赤外光を効率的に利用可能な増感剤がないため、UCが可能な波長範囲が制限されているのが現状である。そこで本年度は、これらの課題を解決し、近赤外光から可視光への大きなアンチストークスシフトを伴うTTA-UCを実現するため、増感剤フリー TTA-UCという新規コンセプトの実証を試みた。 近赤外光から可視光へのTTA-UCを実現するにあたり、発光体分子が基底状態(S0)から励起三重項状態(T1)へと直接励起されるS0-T1吸収に着目した。S0-T1吸収によって発光体分子のT1が生成される機構では、増感剤分子が関与する系間交差や三重項エネルギー移動といったエネルギー損失過程を一切含まないため、大きなアンチストークスシフトを伴うTTA-UCの実現が期待される。一般的にS0-T1遷移はスピン禁制であり、効率的にTTAを起こすために十分な濃度のT1を生成するには非常に高強度の励起光が必要となるが、ハロゲン原子で修飾された芳香族分子では重原子効果により禁制が緩和され、比較的低強度の励起光でS0-T1吸収が起こることが知られている。以上を踏まえ、アルゴン雰囲気下で石英セルに封入したブロモ置換アントラセン誘導体やブロモ置換ペリレン誘導体の結晶に近赤外光を照射したところ、可視光領域にUC発光が観測された。UC発光の発光寿命や励起光強度依存性などの評価から、観測されたUC発光がS0-T1吸収に基づく増感剤フリーTTA-UCによるものであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ブロモ化した発光体分子の単成分結晶においてS0-T1吸収に基づく増感剤フリーTTA-UCが実現可能であるということを見出し、大きなアンチストークスシフト(> 0.9 eV)を伴う近赤外光から可視光へのUCの観測に成功した。この成果は、本研究の目的である近赤外光利用を可能とする新規機構の開拓において一つの大きな進展であるだけでなく、幅広い有機発光材料の研究において新たな分子設計指針を与える重要な知見となり得る。したがって、本研究課題の進捗状況はおおむね順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
上記のS0-T1吸収に基づく増感剤フリーTTA-UCでは、比較的低強度の励起光(~W/cm2)で大きなアンチストークスシフトを伴うUCを達成しており、これは従来のTTA-UCや二光子吸収の系では達成されなかったものである。しかし、非常に低強度の励起光(~mW/cm2)を利用可能な従来のTTA-UCと比較すると必要な励起光強度が大きいことに加え、現状では結晶系や濃厚溶液系に限られているという課題がある。今後は、近赤外光の効率的な利用を実現するため、増感剤フリーTTA-UCシステムの更なる展開を図るとともに、新たなUCエネルギー生成機構の開拓とUCエネルギー回収技術の確立に向けて検討を重ねていく。
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