我々は、強相関電子の持つスピンおよび軌道の自由度の協奏がもたらす新奇な物性現象について研究しています。中でも、ルテニウム(Ru)酸化物CaRuO3が示す不純物効果とスピン-軌道相関との関係に着目し、その解明に向けた実験的研究を行っています。常磁性金属である本物質は、磁性を担うRuを不純物で置き換えると強磁性体へ変化する特異な不純物効果を示しますが、その起源は分かっていません。我々は、強磁性が非磁性不純物置換でも現れることから、磁性の源であるスピンの自由度だけでなく、Ruの4d電子が持つ軌道自由度も寄与したものだと考えています。 本研究では、Ru酸化物が示す物性現象に対する軌道自由度の寄与を調べることを目的とし、CaRu1-xMxO3 (Mは遷移金属)に加え、他のRu酸化物も対象に種々の物性計測を行いました。具体的には、(1)類縁物質(Ca2RuO4、SrRuO3)での磁場中熱伝導率測定、(2)CaRu1-xMxO3での放射光分光実験、および(3)様々なRu酸化物の不純物効果の包括的な調査、に取り組みました。 最も重要な成果は、類縁物質において熱伝導率の磁場変化を見出したことです。特にCa2RuO4では格子熱伝導率が磁場応答していると分かっており、これはスピン-軌道相関の一端を捉えた結果だと考えています。また、La2ZnRuO6やBa3ZnRu2O9に対して不純物置換を行い、それぞれの磁気的基底状態に応じた異なる不純物効果を示すことが分かりました。さらに、La2ZnRuO6とCaRuO3の比較から、不純物誘起強磁性の発現に電気伝導性が重要である可能性が示唆されました。加えて、CaRu1-xMxO3でMサイト周りの局所構造の調査を試みたものの、信号強度の問題から定量解析には至りませんでした。しかし、不純物周りの電子状態を観測する道筋を示したという点で意味のあるものと思われます。
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