研究課題/領域番号 |
17J04895
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 真貴子 東北大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 肺がん / 酸化ストレス / 炎症 / がん免疫 / 悪性化がん |
研究実績の概要 |
がん微小環境でのNrf2活性化による腫瘍抑制効果を検討するため、条件付きKeap1遺伝子欠失マウスと肺がんモデルマウスを組み合わせた。Keap1はNrf2を分解に導く因子であり、Keap1の欠失はNrf2を活性化させる。Keap1FBアリルは、Cre組換え酵素による組換え前はKeap1を正常に発現し、組換え後は発現を消失する。Keap1FAアリルは、組換え前からKeap1の発現低下を示し、組換え後発現を消失する。これらのアリルのマウスと、Cre組換えで活性化型がん遺伝子Krasを発現するマウス(Krasマウス)を交配させ、得たマウスにCre発現アデノウィルスを経鼻投与することで、肺で組換えを誘導した。Kras::Keap1FB/FB(KrasFB)マウスにおいては腫瘍のみ、Kras::Keap1FA/FA(KrasFA)マウスにおいては腫瘍と微小環境の両方でNrf2が活性化した状態となる。誘導後18週の肺において腫瘍を解析したところ、KrasFBマウスと比較して、KrasFAマウスでは腫瘍面積が減少していた。さらに、KrasFAマウスでは肺胞洗浄液中の炎症細胞数が減少していた。これらのマウスを長期観察したところ、KrasFBマウスではがんの進行に伴う体重減少が見られたが、KrasFAでは改善していた。 以上より、がん周辺微小環境でのNrf2活性化は、Nrf2活性化を伴う悪性がんを抑制し、全身状態の改善に貢献すると示された。KrasFAマウスでは炎症の改善が見られたので、血液細胞でのNrf2活性化が上述の要因と考えた。そこで、Nrf2全身欠失マウスの骨髄を肺がん誘導前のKrasFAマウスに移植し、血液細胞のNrf2を欠失させたのち肺がんを誘導した。対照群と比較して肺重量の増加傾向を認め、血液細胞でのNrf2活性化が がん抑制に寄与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度、NRF2の活性化を伴わない肺がんマウスKras::Keap1+/+マウスと比較して、NRF2活性化肺がんマウスKras::Keap1FB/FBでは、肺重量増加、腫瘍面積の増大が観察され、がんの悪性化が確認された。今年度これらのマウスを長期間にわたって観察した結果、Kras::Keap1FB/FBでは体重の減少や早期の死亡が観察された。続いて、Kras::Keap1FA/FAマウスにアデノCreを経鼻投与で肺に感染させ、がん細胞でのNRF2活性化に加えてがん周辺微小環境でNRF2活性化が起こる状態に誘導した。がん微小環境でNRF2が活性化していないKras::Keap1FB/FBマウスと比較して、体重減少が始まる時期が遅く、生存期間延長も観察された。がん周辺細胞でのNRF2活性化が、悪性化肺がんマウスの生存期間延長と体重減少の抑制をもたらすことが考えられた。がん誘導後9、14、18週においてKras::Keap1+/+マウス、Kras::Keap1FB/FBマウス、Kras::Keap1FA/FAマウスの肺組織切片から腫瘍面積を定量した。いずれの時期においてもKras::Keap1FB/FBマウスと比較してKras::Keap1FA/FAマウス肺の腫瘍面積は縮小傾向を示した。責任細胞の同定のため、抗炎症機能が血液脂肪において多く報告されていることから、Kras::Keap1FA/FAマウスの血液細胞のNRF2を欠失するために、すでに樹立されているNRF2全身欠失マウスをドナーとして用意し、Kras::Keap1FA/FAマウスをレシピエントとして骨髄移植実験を行なった。骨髄移植によりNRF2を血液細胞で欠失したKras::Keap1FA/FAマウスにおいてKeap1FA/FAマウスの骨髄移植群よりも早期に体重減少を呈する結果を得ており、血液細胞の関与が示唆されている。
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今後の研究の推進方策 |
NRF2の活性化を伴う悪性がんに対する新規治療法開発として、がん細胞中のNRF2阻害剤による治療法の開発研究も実施する計画を立てている。来年度には、樹立したNRF2活性化肺がんモデルマウスであるKras::Keap1FB/FBマウスを用いた、阻害剤候補化合物の活性評価を計画している。阻害剤候補化合物をKras::Keap1FB/FBマウスに投与し、候補化合物の薬効(腫瘍退縮効果)および体内動態を解析する。NRF2活性化がんにおけるNRF2の阻害は、がんが獲得した化学療法への耐性を失わせることで抗がん剤感受性を増強する(chemo-sensitize)ことが期待される。NRF2阻害剤の単独投与に加えて、種々の抗がん剤と組み合わせた併用投与を行い、NRF2阻害剤の抗がん剤感受性増強能を評価する予定である。 さらに、来年度は、今年度確立した、がん肺から炎症細胞を抽出する手技を応用し、炎症細胞の中でも、がん腫瘍抑制に寄与する責任細胞の同定を目指して、FACSを用いた細胞種の分画実験を計画している。 今年度に樹立したKras::Keap1FA/FAマウスを用いた実験の結果から、遺伝的にがん周辺微小環境でNRF2を活性化させることで悪性がん腫瘍が抑制される結果を得た。この結果を受けて、この腫瘍抑制効果が薬剤誘導的なNRF2活性化によっても観察されるか、Kras::Keap1FB/FBマウスへの活性化剤投与によって検証する実験を計画している。
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備考 |
各機関でのリリース:(https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2019/03/award20190328-01.html) (http://www.med.tohoku.ac.jp/news/3981.html)(http://www.iiare.tohoku.ac.jp/news) 受賞等:HOPE Award(11th HOPE Meeting)を含む計6件の受賞
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