がんの治療では、外科/化学/放射線療法が行われるが、これらの治療に耐性を持つ難治療性悪性化がんの治療法は確立されていない。肺腺がんをはじめ様々ながんの約15-30%に、タンパク質NRF2の活性化が認められ、このがんは解毒酵素や生体防御因子の活性化によって治療に抵抗性を示す悪性化がんである。本研究では、がんが腫瘍細胞および線維芽細胞、免疫細胞など正常細胞から構成される微小環境中に存在すること、 正常細胞でのNRF2の機能が毒物/酸化ストレスに応答して起こる異物除去・生体防御反応であることに着目し、微小環境中の正常細胞のNRF2活性化による悪性化がん抑制効果を検証した。 肺腺がんマウスの腫瘍細胞特異的あるいは全身性にNRF2を活性化し、比較から正常細胞におけるNRF2活性化の影響を検証したところ、活性化群では肺の腫瘍サイズが縮小し、病理学的に悪性の組織像が減少しており、正常細胞のNRF2活性化が悪性化がんの進展を抑制した。続いて、過去の報告から微小環境中特に免疫細胞が がん抑制機能を担うと仮説を立て、検証した。全身NRF2欠損マウスの骨髄を移植し血液細胞においてNRF2を欠失させたマウスの肺では、腫瘍サイズの増大と悪性化病理像の増加が観察され、 免疫細胞を含む血液細胞でのNRF2活性化が がん抑制に貢献していた。以上の結果はアメリカがん学会誌 Cancer Researchにて学術論文として受理された。本研究は、これまで有効な治療法のなかったNRF2活性化悪性化がんを、微小環境のNRF2活性化によって抑制する全く新規の治療方針を提案するものである。NRF2活性化剤は臨床試験中の薬剤がある。さらにNRF2活性化がんは、肺がんだけでなく食道/膀胱がん等様々ながんで確認されていることから、本研究の結果より、今後NRF2活性化剤をがん種を超えた制がん剤として利用できる可能性を提案したい。
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