三重項励起子の動力学的な制御は、有機エレクトロニクスにおいて重要な課題である。一般に純粋な芳香族化合物においては三重項励起状態(T1)が関与した発光の室温での観測は困難である。前者は一重項励起状態(S1)とT1のエネルギー差を小さくすることで、後者は放射速度の増大や無放射失活の抑制により発光の観測が可能になる。既存の方法では三重項励起子の失活原因である発光材料の分子振動や濃度消光、エネルギー移動を抑制しているものの、発光材料の凝集や熱安定性が低い等の問題が存在する。本研究では発光材料の分子振動抑制を目的として、多孔性金属錯体(MOF)を用いることで有機配位子及び内包した発光材料のT1からの無放射失活抑制を試みた。加えて、三重項励起子の動力学的な制御を検討した。 熱活性化遅延蛍光(TADF)を示すMOFは報告されていないため、TADFを示す新規有機配位子を合成し、ジルコニウムと組み合わせることで新規MOFの合成に成功した。新規MOFは室温で遅延発光を示し、その温度依存性の測定により、TADF特性を有することを明らかにし、世界で初めてTADF特性を示すMOFの合成に成功し、Chemical Communicationsに掲載された。 T1の動力学制御の方法として酸素導入や温度上昇などが報告されているが、無放射失活の増大、可逆性に乏しい等の問題がある。既にZIF-8の細孔へのコロネンの内包により、内包したコロネンの無放射失活と濃度消光の抑制に成功し、室温での長寿命りん光を実現した。今回の研究では、大きなスピン軌道結合定数を有するキセノンをZIF-8に吸着させることで、コロネンのT1からの放射失活速度を可逆的に制御した。これにより三重項励起子を失活させることなく、可逆的に短い反応時間で三重項励起子の動力学な制御に成功し、Communications Chemistryに受理された。
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