研究実績の概要 |
当研究室では、腫瘍血管正常化による抗がん剤の送達向上や抗腫瘍効果の向上など、がん治療における腫瘍血管制御の重要性を報告してきた(Takara K., Cell Reports 2017, Eino D., Cancer Research 2018)。基礎研究により得られた知見をがん治療に応用するために、基礎と臨床をつなぐヒト腫瘍血管の動物モデルが求められている。そこで、本研究では、ヒト腫瘍血管を標的とした薬剤によるヒト腫瘍血管の形態変化を調べることを主目的とし、ヒト腫瘍血管in vivoモデルの開発に着手した。患者由来の腫瘍環境を再現する必要があると考え、patient-derived xenograft(PDX)モデルを用い、経日的な血管変化を観察するためにcranial window(CW)モデルを使用した。本年度得られた成果は以下の通りである。 1.蛍光標識した抗CD31(血管内皮細胞マーカー)抗体を静脈内投与することによりヒト腫瘍血管特異的に観察することが可能であり、Dextran-Rhodamine Bの投与により血流のある機能的な血管であることを確認した。 2.ヒト血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)中和抗体の投与により、ヒト血管長の減少が見られた。一方、マウス血管長の変化は見られなかった。 以上の結果より、CW-PDXモデルにおけるヒト腫瘍血管は血管内皮細胞において重要なVEGFシグナリングが機能しており、ヒト腫瘍血管を標的した薬剤を評価する実験モデルとして妥当であると判断した。 本モデルは、患者由来の腫瘍を用いたヒト腫瘍血管モデルであることから、ヒト腫瘍血管生物学に立脚した薬剤開発に貢献するものと考えられる。
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