液体水素中に浸したニオブ、バナジウム、パラジウム、チタンなどの金属ナノ接合に対して、点接合分光法を用いて微分伝導度の測定を行った。この実験から、これら金属のナノ接合の両端に30mV程度の微少な電圧を印加することで、温度T<20Kの低温でも水素の吸蔵を誘起することができることが明らかになった。 また、この手法を用いて作成した金属水素化物ナノ接合の2階微分信号には、室温で作成した水素化物によるナノ接合では現れない、特異なスパイク状の異常が出現することが分かった。そして、この観測されたスパイク状の異常について、その出現電圧値は金属ナノ接合の接合径に依存していることを観測した。さらに、このスパイク状異常の出現電圧値の接合系依存性から、ナノ接合への微少電圧印加による水素吸蔵誘起には、電子とフォノン間の非弾性散乱により励起されたフォノンが密接に関与していることが示された。これは、フォノン励起により「フォノンアシスト拡散」が起こっている可能性があることを示している。 液体水素中に浸したバナジウムナノ接合においては、水素吸蔵に伴ってその微分伝導信号が大きく変化することを観測した。加えて、バナジウムナノ接合から水素を脱離させることによって、その信号がもとの信号に戻ることも観測された。したがって、水素吸脱によってバナジウムナノ接合の電子輸送特性が制御可能であることが分かった。加えて、変化後の微分伝導信号の温度に対する依存性からは、バナジウムナノ接合の水素化によって、そのフェルミ面付近の電子状態密度に何らかの変調が生じていることも示唆されている。
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