研究課題/領域番号 |
17J04978
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
新居 舜 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
キーワード | 修正重力理論 / 宇宙論 / 加速膨張 / 重力波 |
研究実績の概要 |
本研究の課題である宇宙論的観測と整合的な量子重力理論の構築に向けて、量子重力理論が予言するスカラー場により変更される重力法則に対して連星起源の重力波を用いた観測的制限をつける研究を行った。
現在の宇宙論的観測から、宇宙が誕生から現在に到るまでの間に少なくとも2度の加速膨張期を経ていることが強く示唆されている。宇宙の加速膨張は一般相対性理論の枠組みにスカラー場を新たに導入することで実現できる。一方、超弦理論などの量子重力理論の候補となる理論では、一般に複数のスカラー場の存在を予言する。したがって加速膨張の観測結果と整合的な理論を探ることは、量子重力理論を制限することになる。
スカラー場と重力場や物質場の相互作用は、ホルンデスキ理論により統一的かつ一般的に記述される。ホルンデスキ理論では、スカラー場と重力場の相互作用の種類に応じて、時空を伝搬する重力波の振幅と位相の間に固有の相関関係が現れる。したがって、重力波を観測することでホルンデスキ理論に含まれる相互作用を限定することが可能である。そこで、私はモンテカルロ法により最近の宇宙膨張の直接観測と整合的な1,000,000個のモデルを生成し、相互作用別に重力波の振幅と位相の相関関係の分類を行った。さらに、分類の結果とGW170817と付随した電磁波放射GRB170817Aの測定結果と比較した。GW170817とGRB170817Aの同時観測により重力波の伝搬速度は光速とわずか1000兆分の1の精度で一致していることが確かめられたことから、スカラー場と重力場の相互作用のうちリッチスカラーやアインシュタインテンソルと結合する項に対して厳しい制限がつけられた。なお、ほぼ同時期に異なる研究グループにより相次いで独立に、私と同様の結論が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は当初の計画にはなかったが、相次ぐ重力波観測を踏まえて新たな研究課題として設定した。本研究の内容は既に米国物理学会誌Physical Review Dに受理された。さらに、研究の結果について研究会や学会において精力的に発表し、活発な議論を行うことができた。とりわけ、重力波観測を用いた重力理論の制限の研究は、国際会議JGRG 27において高く評価された。
|
今後の研究の推進方策 |
GW170817の観測はホルンデスキ理論に対してもっとも厳しい制限を与えたが、実はGW170817の観測結果と矛盾しない重力理論はまだ多く存在している。これらの理論は、初期密度揺らぎの非ガウス性や整合性条件、あるいは重力定数や暗黒エネルギーの時間変化を予言している。このような予言を検証するためには、複数の赤方偏移での多様な天体を用いた観測が必要となる。
これまでの宇宙論的観測により、有用なデータが数多く得られた。さらに、DES、HSC、DESIなどの新規の観測プロジェクトが続々とデータを公開している。2020年代には、CMBや大規模構造、及び重力波の観測を組み合わせることで重力理論がより高精度に制限され、重力法則の解明が大きく期待されている。
今後は現在あるデータを用いてホルンデスキ理論において観測を行うと同時に、将来観測においてどこまで重力理論を制限できるか統計解析などを用いて重力理論の制限を続けていく。
|